◆斉藤由貴の声が、キャラクターの人生を昇華させる
そして斉藤由貴演じる春日局の深み。いわば<家光×有功編>におけるヒールであろうが、単純にそう言えないキャラクターへと仕上げ、見る者の心にババをしっかりと残した。徳川も家督を女に継がせるべきと、皆が口をそろえ始めるなか、男女逆転大奥をスタートさせた春日が、「笑止千万!」とかたくなに反対する。戦国の世を知っている春日だからこその恐怖、怯えであり、女の価値を「子を産み」お家を繋げることのみと考えている表れでもある。
そんななか倒れた春日は、彼女の性格を考えて「わたしがしているのは嫌がらせですから」と話す有功の世話を受け入れる。そして春日の最期。思えば、本作は1対1、ふたりきりで見せ切る印象的な場面が幾度も登場してきた。それだけ、自分自身の葛藤とともに、誰かと誰か、最小限の単位で生まれる対ひとのドラマを丁寧に見せてくれる。そしてそれは役者の力量を信じ、任せなければできないことだ。
自分のことを語りだす春日。涙を流しながら「そなたに聞いてもらえれば、よい」と。そして「まだわたくしなどが、お力になれることがございますでしょうか」と言う有功に(本当にこのひとは、自分のことは何もわかっていないのだわ)とでも言いたげな、わずかな、そして優しさを含ませた目の動きを見せて、「あの日わしは、仏を、さらってきたのじゃ」と春日にとっても、有功にとっても、これまでの日々を救いに昇華しうる言葉を、斉藤が見事な機微をこめて口にした。