こちらは3行どころか1行で纏めると、親子2代に渡るスゴ過ぎる古典英雄譚が6時間弱なので是非観て欲しいのであるが一旦、ナートゥしてからでも遅くはないというか、ナートゥからのジャイマヒシュマティもそれはそれで味わった事のない、快楽である事は約束する。

 因みにナートゥとは、英雄の歌であり、故郷のダンスであり、刺激強めのインドのダンスであり、切れ味鋭い野生のダンスであり、『RRR』中盤に登場するインド映画ではお馴染みのミュージカルシーンであり、所謂高貴な身分の舞踏会にひょんな事から招待された超部外者の主人公2人が、西洋のダンスも踊れん無知が!と、会を追い出されそうになる際の返す刀として「サルサでもフラメンコでもない”ナートゥ”をご存知か?」と故郷のダンスで場を引っくり返すという痛快極まりない一幕の事なのであるが、こちらある種の耐久レース、競技的な側面も持っており、中盤以降は左足を軸とした地獄ケンケン転んだら負けよゲームとなって行く。

 粗野でいてとても上品ではないけれども、その力強いステップに心惹かれ加わっていく貴婦人淑女、初めは憎々しくその様を睨む若紳士達も正々堂々ナートゥのルールで主人公達に闘いを挑むという図式が音楽に国境なし、舞踏に国境なしというノンバーバルコミュニケーションを実際に、インドのみならず旅行英会話が余り通じない南米やアフリカ圏を渡航中に何度も経験したおっさんの胸を打つの刺すのだ泣けるのだあああ(因みに当シーンの撮影場所は戦禍直前のウクライナ、キーウだったとの事)。

 そして一番泣けたのはナートゥに誘ったラーマは、若紳士に敬意を払って”MY BROTHER”と、”良ければおいで、兄弟(或いは友よ)”と言っている事(皮肉かも知れんが)。そう考えるとそこに正々堂々と挑んだあの鼻持ちならん若紳士(確か役名はジェイク。なかなかのイケメンでした)も愛おしくなっちまうし騎士道精神を感じたし、というナートゥの魅力であり魔力。少なくともおっさんにとってナートゥは”魔法の言葉”に思えたし聞こえたし、というかそうとしか思えなかった。