なぜ、若手ミュージシャンは腹から声を出さないのか

 最初にマイベストを発表したのは、いしわたりだ。彼が選んだ5~10位は以下である。

5位:YONA YONA WEEKENDERS「考え中」
6位:今市隆二「辛」
7位:imase「Have a nice day」
8位:サカナクション「ショック!」
9位:idom「i.d.m.」
10位:なとり「Overdose」

 毎度のことだが、“今”を感じた。例年、なとりのように顔出しをしないアーティストは必ずランクインする。昭和生まれの筆者みたいな老害からすると、そこが思い入れしにくい点なのだが、理解はできる。いわば、この人たちがボカロを見て育ったネイティブ世代。だから、なとり世代が顔出ししないのは自然なことだと思う。

 あと、今年のランキングを見て特に強く思ったのは、お洒落でエモくてチル系の曲が多いことだ。偽悪的に表現すると、みんな腹から声を出していない。理由はわかる。多くの若手が宅録をしているからだ。
 
 例えば、7位のimaseはその典型。音楽活動わずか1年で、TikTokに投稿したオリジナル曲の総再生数が12億回を突破した新星である。いち音楽リスナーだった若者が2020年に楽器を始め、2021年に作曲を始め、その年末にはメジャーレーベルと契約……という、奇跡の道を歩んできている。

「今回選んでて、『彗星のように現れる』という現象が2022年は重要だった気がします。というのも、彼は3年ぐらい前に楽器を初めて触り、作曲を始めたんです。この3年がなんだったかというと、ざっくり言うとコロナ禍なんですね。巣ごもり需要で、楽器がすごく売れた3年間だったんです。彼のように楽器を始めた人は日本中にたくさんいると思うんですよ」(いしわたり)