◆また映画による新しいトラウマが増えてしまった
世界中の人がロックダウンを経験したからこそ、あの頃胸の中に渦巻いていたものを思い出さずにはいられない作品だ。現実と奇妙な符合を見せたが故に、ついついピンクの雲とコロナウイルスを重ねてしまうものだが、作品自体はコロナ禍が始まる前に製作されたものだという。であればピンクの雲は、知らぬ間に植えつけられた思想や時間をかけて緩やかに締め上げてくる社会といった、もっともっと見えにくくて身近にあるもののようにも思えてくる。
ふと窓の外を見ると、浮かぶ雲が夕日を浴びて、淡くピンクに色づいていた。思わずぎょっとして急いでカーテンを閉めた。困ったことに、また映画による新しいトラウマが増えてしまったようだ。
『ピンク・クラウド』
監督・脚本/イウリ・ジェルバーゼ 出演/ヘナタ・ジ・レリスほか 配給・宣伝/サンリスフィルム ©2020 Prana Filmes
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。