◆触れると10秒で死に至る雲

映画『ピンク・クラウド』
『ピンク・クラウド』より
あれよあれよという間に突入したコロナ禍。通りから人の消えたあの日々、私が感じていたのははっきりとした苦痛だった。家に一人でいることそのものは嫌いではない。けれど、自ら選んだわけではない、というその一点をもって許しがたい思いでいっぱいだった。

あれから2年ばかりが過ぎ、事態は少しずつ収束に向かいつつある。でももし、あの日々が今度はもっと強い形でかえってきたとしたら、それが永遠に続いてしまったとしたら……。私は正気を保っていられるのだろうか。

突如、世界中に発生した正体不明のピンク色の雲。触れると10秒で死に至るため、人々は外に一歩も出ない、家の中での生活を余儀なくされることとなる。一夜の関係を共にした男女、友人の家から帰れなくなった少女、自宅に一人きりの女性……終わりの見えない隔離生活の中で、人々の感情は徐々に変化し、歯車が狂うかのようにバランスを失っていく。

外界での生活に思い焦れピンクの雲を憎々しく思う人もいれば、情報を極限まで遮断し楽観的に生きることを選択する人もおり、さらにこの環境の中で生まれた子どもたちはピンクの雲に愛着すら持ち始めるようになる。緩やかな不自由の中、どう現実と向き合うか、その選択の中にその人の生き方が見えてくる。