欧米では「手を出した方が負け」論が強い

 欧米発信の発言からは、晴れの舞台を台無しにしたウィル・スミスの暴挙を非難すると同時に、何があっても暴力はNGで、手を出した方が負けなのだという価値観が浮き彫りになっています。

 イギリスの『ガーディアン』電子版は、3月28日配信の記事でこのスキャンダルに対するハリウッドセレブの反応を列挙しました。なかでも、特にスミスの行為を冷ややかに見ていたのが、俳優のミア・ファロー(代表作に『ローズマリーの赤ちゃん』、『華麗なるギャッツビー』など。ウッディ・アレン監督との交際でも知られる)でした。3月28日に、こうツイートしたのです。

アカデミー賞“ビンタ”事件、欧米では日本と真逆の反応「最も恥ずべき」「見るにたえない絵面」
(画像=『女子SPA!』より引用)

ミア・ファロー(C) Laurence Agron

 <ただのジョークでしょ。それがクリス・ロックの仕事なんだし。いつもどぎついこと言うけど、今回のは彼にしたらマイルドな方よね。それに私はG.I.ジェーンが大好き>とコメント。最後のダメ押しも含め、スミスに同情する点はないと考えているようでした。

 イギリスの俳優、ケイリー・エルウィスは、もうちょっとシリアスに受け止めたようです。主演男優賞を獲得した際のスミスのスピーチを引用し、暴力行為を明確に否定しました。

 <私が敬意を抱く“愛の器”は、他者に対して暴力的に振る舞うことなど決してなかった>(3月28日 自身のツイッター)

ビンタ後の“てん末”へも批判

 同じくイギリスの『テレグラフ』紙電子版は、映画批評のロビー・コリンのコラムを掲載。タイトルはズバリ、「ウィル・スミスのビンタは、オスカー史上最も恥ずべき、そして許されざる瞬間だった」(原題『Will Smith’s slap was the most shameful – and unforgivable – Oscar moment ever』2022年3月28日 筆者訳)

 ここでコリンが厳しく批判しているのは、暴力行為そのものよりも、その後のてん末についてでした。本来ならば警備員に連れられ会場をあとにすべきスミスが、なぜか再び最前列の席に座り、その後も式典を楽しんでいたことを疑問視。そして、殴られたロックのもとには誰も集まらず、加害者のスミスを慰める取り巻きにも違和感を抱いたと書いています。

 こうした一連の光景が、<ハリウッドの大物であれば、自分のしたいように振る舞ってもかまわないと証明されてしまった>ことの悪例として記憶されるべきだと断罪したのです。