ところが、それからしばらくして吉紹さんが脳梗塞で倒れ、2頭の愛犬の世話と吉紹さんの介護を陵子さんが担うことなったのです。

「松を連れて散歩に出ると、知らない人から“まっちゃん!”って声をかけられるんです。主人が倒れるまで散歩は主人が行っていたし、引っ越してまだ間もなかったので、私は知らない人ばかり。でも、松がいたことで、すぐ地域に溶け込むことができました。犬って凄いんだなあって改めて思いましたね」

ところが、ホッとしたのもつかの間。松ちゃんが大好きだった吉紹さんと松ちゃんの間には、この病がきっかけで大きな溝ができてしまったのです。

「病気で体が不自由になってから、いつもイライラして怒ってばかりで手に負えなかった。あれだけかわいがっていた松のことすら敬遠していました。最初は松も、どうして今までのようにかわいがってくれないのか、とても不安そうで、見ているのも辛かった。
それでも松は“いつかまた優しいお父さんに戻ってくれるはず”と信じて疑わなかったんでしょう。いつも、主人のそばに寄り添い、主人を見守ってくれていました。その一途さは人間が真似できるものじゃない。
主人をひたすら信じて待っていたんです」

松ちゃんの気持ちが神様に通じたのでしょうか―?
病から三年ほど経って、吉紹さんは相手の気持ちを気遣う「やさしさ」を取り戻していきました。その「やさしさ」が真っ先に向けられたのは、愛犬、松ちゃんです。

「主人の中にあった“怒り”が消えました。松におやつを差し出したり、かわいがる姿を見ていると、犬には本当にセラピーの力があるんだと。何より松の信じる心が、主人の心をもとに戻してくれた。間違いなく、松がいたから回復が早かったんです」

犬が持つ不思議な力を見て、ますます松ちゃんへの愛しさが増す陵子さんでしたが、松ちゃんは飼い主の年齢を猛スピードで追い越し、気が付けば17歳という高齢になっていました。

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.3
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲(前)義姉の淑子さん&蓮ちゃん、(後)陵子さん&松ちゃん

目もほとんど見えなくなり、耳もすっかり遠くなり、認知症を発症。
昼夜逆転して、夜鳴きが激しい松ちゃんを、陵子さんと淑子さんが夜中に交代で起きて、お世話をすることになりました。

「夜中に松が鳴き始めると、一晩で3,4回起こされる。さて私が先に見に行くか、彼女が先に見に行くか、お互いそんな腹の探り合いをしながら、微妙なタイミングで交代しながら世話しています(笑)」と、老犬介護を冗談交じりに話すのは義姉の淑子さん。

鳴く時間や鳴き声で、お腹が減っているのか、トイレなのかがわかるようになり、ふたりで愛犬の介護を上手に分担しています。

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.3
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲松ちゃんと遊びたい蓮ちゃん

「年老いた松の介護を通して感じるのは、老いるってこういうことなんだな、という前向きな学び。松は認知症は出ているけど、よく食べ、良く寝て、立派なウンチも毎日する。こういう当たり前のことがどれだけ大切で、幸せなことなのか、松を見て実感しました。
それは私たち人間の老いにも通じること。介護は確かに楽ではないけど、体験を通して人としての学びも多い」と陵子さんは松ちゃんとの17年間を振り返ります。

吉紹さんの介護に、松ちゃんの介護―。ダブル介護にも笑顔を絶やさず、毎日過ごしてきた陵子さんですが、一年ほど前からは4歳年下の蓮ちゃんも病を患うように―。

「13歳を過ぎた頃からウンチもオシッコも全くでなくなり、慌てて病院に行くと、会陰ヘルニアと診断されたんです。手術を勧められましたが、年齢的に手術はしない方がいいと決断したんです。それから週に2,3回、浣腸をしてウンチを掻き出し、オシッコも導尿で出してもらうため動物病院へ通院。あの頃は本当に大変で・・・。蓮も辛かったんでしょう。病院から帰った日は気持ちが悪いのか、何度もおしっこを出すポーズをして落ち着きませんでした」

その後、陵子さんと淑子さんは、病院通いを続けながら、蓮ちゃんのケアを試行錯誤した結果、今では薬でウンチもオシッコも自力で出せるようになりました。

それでもいつ蓮ちゃんの状態が急変するか、心配で目が離せず、動物病院が休診の日は不安で仕方がない、と言います。
「今は、松の認知症、蓮の会陰ヘルニア、夫の介護と、トリプル介護です」と明るい笑顔で話す陵子さん。

案内してくれた、ご主人と松ちゃんが過ごすリビングでは、年老いた松ちゃんが徘徊して家具にぶつかって怪我をしないよう、様々な工夫が凝らさせています。

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(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲怪我防止の為、家具の角にぬいぐるみを付けて対策

年をとって、目が見えず、耳が聞こえずとも、今でも松ちゃんの大のお気に入りは吉紹さんのそば。吉紹さんの匂いのする場所です。
体の不自由な吉紹さんはもう、松ちゃんを抱くことはできませんが、松ちゃんは今でも吉紹さんの腕の温もりを忘れてはいません。
小さな、小さなおじいちゃんチワワの松ちゃんは、オムツをつけて、今日も吉紹さんの匂いのするシャツの上で、すやすやと幸せそうに眠っています。

松ちゃんは、きっと、夢の中で吉紹さんの腕に抱かれていることでしょう―。
その腕の中には17年間にも及ぶ温かな思い出がいっぱい、いっぱい詰まっているのです。

(取材:2022年5月)

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(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲ご主人の吉紹さんを囲んで


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