もし誰かが傷つくような発言を「悪口」や「毒舌」というのであれば、ウエストランドさんは間違いなく「悪口」も「毒舌」も言っていない。語気の強さ、言葉選び、抽象的なものへ対しての偏った考えは、たしかに見ようによっては「悪口」や「毒舌」のように見えるかもしれない。ただ少し距離を置いて冷静にネタを見たときに、具体的に誰か傷ついた人がいるのか? 誰かを吊るしあげて笑いを取ったのか? たぶんいない。たぶん誰も傷ついていない。仮にウエストランドさん自身が自分たちのネタを「悪口」や「毒舌」だと言っていたとしても、僕にはそう見えないのだ。
これは「いじり」を漫才の中に取り入れただけなのだ。「いじり」というのは、「いじめ」との境界線がとても曖昧で、技術がないものがその技を使うと「いじめ」になってしまう可能性がある。たとえ芸人であったとしても、この手法はとても扱いが難しく、タイミングを間違えると笑いを起こすことすらできない、諸刃の技術だ。
ウエストランドさんはこの「いじり」を自分たちなりに極め、そして漫才に入れて独自の形を作り「ウエストランド」にしか出来ない唯一無二の漫才を造り上げたのだ。しかも良く見ると、あれだけ独断と偏見でセリフを作っているにも関わらず、誰も傷つけないシステムに仕上がっている。さらに具体的に名前を出さないようにし、より人を傷つけない為に細心の注意を払っている。
もし誰かを傷つけていたり、本当の悪口になっていれば、今の時代を背中に感じている審査員たちはウエストランドさんに軍配を上げる事はないはずだ。つまり世間体や現代のルールに則った笑わせ方を踏まえても、ウエストランドさんは決勝戦に残った芸人の中で一番面白く、なるべくしてチャンピオンになったというわけだ。