しかし今回の放送で視聴者に何より強い印象を残したのはやはり、ウエストランドの“悪口”漫才が優勝を勝ち取った、という点だろう。

 決勝戦でウエストランドが披露したネタは、あるなしクイズを出題する河本太に対して、さまざまな対象(そこには、こうしてウダウダとわかったようなことを書きたがる、私のようなウザいお笑いファンも含まれる)への“悪口”を井口浩之がひたすら繰り返す、というものだった。

 “悪口”はお笑いにおいて、観客の共同性に最も効率よくアプローチできる方法のひとつである。世間の水面下において漠然と共有されている認識を言語化してみせることによって、観客のなかにある悪意を炙り出したり、演者との共犯感覚を喚起したりすることができる。そういう笑いは、観客や世間の共同性を刺激してリフレッシュし、再強化する。

 そうした方法を駆使していた存在として真っ先に思い当たるのはやはり、1980年代初頭、MANZAIブーム期のツービートだろう。老人や田舎者、ひいては「赤信号、みんなで渡れば怖くない」に見られたように、日本社会そのものを巧みにからかったり、バカにしたりするネタで人気を博したビートたけしは、世間の“ホンネ”を可視化するような批評性を持つ芸人として高い評価を得た。

 それまではニューミュージック的=ハンド・イン・ハンドな「やさしさの時代」の感覚を好んでいた太田光少年は、ツービートの“ホンネ”の笑いに衝撃を受け、後年、爆笑問題を結成することになる。初期の爆笑問題も世間に対するブラック・ユーモアを強く含んだコントを演じており、現在でも時事ネタ漫才のなかにそうした片鱗は残っている。

 ウエストランドは爆笑問題と同じ事務所・タイタン所属ということもあり、このツービート~爆笑問題の系譜を改めて彼らに見いだすような評価もあるだろう。