今年も大きな注目を集めた『M-1グランプリ2022』(テレビ朝日系)は、結成14年のコンビ・ウエストランドが制する結果となった。昨年の決勝戦放送後、私は「『M-1』は視聴者に、芸人について「語る」ための異様に快適な環境をお膳立てしてくれる」と書いたのだが、今回もそういった環境は順調に機能していたように思える(私自身、こうして懲りずに「M-1」についてのテキストをまた書いている)。

 この番組は2015年に再開されて以降、今年で8年目を数える。芸人とファンの間にあるエモーショナルさに鑑みると、恐らく今後も恒例行事として延々と持続していくのだろうなと改めて思う。

“悪口”と“ホンネ”と共同性

 ところで、前述の過去記事で私は「『M-1』というゲームに対する過剰適応とは違った形で、私たちに揺さぶりをかけるような笑いを思わぬところから投げつけてくる芸人はきっと登場するはずだ」とも書いた。結果として今年の決勝放送には、そのような笑いはあまり露出しなかったように思う。唯一、ヨネダ2000のハード・ミニマルな漫才(?)のなかには、観客側・視聴者側との共同性を置き去りにする=ゲームを無視するような笑い――DA PUMPのKENZOと「if…」を持ち出す箇所だけが、観る者と共同意識を共有できる部分だった――があったとも感じる。

 以前まで私は正直、悪い意味での“サブカル臭さ”(笑いそのものより世間に対する衒いのほうが先立つような印象)を彼女たちのネタに若干感じていたのだが、現在のふたりの自信に溢れた舞台所作は、自分たちの世界観を維持したうえで観客を圧倒するおもしろさの強度、 タフネスを生んでいると思う。