岸本が“希望”になるのか

 第9話も名シーンが盛りだくさんの『エルピス』だったが、中でも、指示にしたがって加害者を守ったことで被害者を自殺に追い込んでしまった「自分の罪深さ」を亨が「背負い続けるしかない」と語ったのを受け、友人へのいじめを見過ごした経験のある岸本も、迷いながら「僕も……昔、自殺した友達のことを思いながら、この仕事をやっています」と、お互いが抱えているものを打ち明けあったシーンは特筆すべきものだった。SNS上の視聴者も「岸本くん役の眞栄田郷敦さん、長澤まさみさんより目立ってない?」「眞栄田郷敦の演技ほんま最高だな……」など、その存在感に圧倒されていた様子。第1話の“温室育ちのお坊ちゃん”から、別人のように内面的な厚さを増した岸本を見事に表現した眞栄田郷敦の評判はうなぎ登りだ。

 村井によって、見ないふりをしていた中学生時代の“罪”と向き合ってからの岸本は、ジャーナリズムにのめり込むようになり、第5話以降は浅川以上に“主人公”的な存在感を放っている。松本死刑囚が逮捕された決定的な要因となった目撃証言が偽証だったという証言も、松本死刑囚の冤罪を決定づける被害者の遺品のDNA鑑定も、岸本の粘り強い取材のたまものだった。その姿を見てきたからこそ村井は、墓場まで持っていくつもりだった大門亨の証言VTRを岸本になら託せると思ったのだろう。亨も、岸本の真摯な姿勢に対し「僕は少し神様に感謝しました。このことを、そういう……岸本さんという人に預けることができるのだと思うと、ふっと……真っ暗闇の中に一筋、細い光がさしたような気持ちです」と微笑んでいた。村井、そして亨にとって、岸本こそが希望の光なのだろう。最終回の予告映像には浅川が岸本に抱きつき、「君、最高!」と喜ぶ場面があったが、ふたたび心と体を病みつつある浅川にとっても岸本は希望となるのだろうか。

 それにしても、番組に出ている女の子に手を出そうとしたことをネタにヘアメイクのチェリー(三浦透子)に脅され、やむなく冤罪事件を追うことになった、仕事のできない“ボンボン”の若手ディレクターの頃から、岸本の顔つきは回を追うごとにどんどんと変化していった。中学時代の苦い経験を思い出したときの幼さもあった悲痛な顔、母親までも突き放して真実の追及に没頭していく、やや狂気じみた目つき、浅川にスクープを褒められて喜ぶ顔、言い訳をして自分と一緒に事件を追ってくれない浅川を侮蔑する顔、証言をしてくれる人たちに向ける真摯な眼差し……。弱冠22歳、役者デビューとなった映画『小さな恋のうた』(2019年公開)の撮影からはまだ4年しか経っていないが、ここまで多彩な表情を見せ、かつ視聴者を引き込む演技を見せた作品は他にないだろう。『エルピス』は俳優・眞栄田郷敦の代表作になったと言い切ってもいいのではないか。

 そして最終回。掴んだ“真実”が、文字通り命がけのものであることを突きつけられた岸本はここからどう戦っていくのか。浅川はふたたび立ち上がるのか。そしてやはり、大門の後継者候補となる斎藤が立ちはだかるのか。どんなクライマックスが待っているのか、まったく予想もつかない『エルピス』最終回は今夜放送だ。

■番組情報
月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原 善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣 護(クリエイティブプロデュース)
演出:大根 仁、下田彦太、二宮孝平、北野 隆
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/elpis