長澤まさみ主演のフジテレビ系月10ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が、今夜放送の第10話で最終回を迎える。実在の冤罪事件などをベースにしているとはいえ、いざ始まると予想を超える骨太さで、政治やメディア、権力者への抵抗と自らの内省を描く傑作だった。また長澤まさみ演じる女性アナウンサー・浅川恵那が主人公でありながらも、浅川に並ぶ「2人目の主人公」とも言えるキャラクターの活躍も話題となった。それが、冤罪疑惑の解明に没頭する岸本拓朗(眞栄田郷敦)だ。
村井が岸本に託したもの
2002年から2006年にかけて神奈川県・八飛市で3人の少女が次々に殺された「八頭尾山連続殺人事件」の容疑者として逮捕され、死刑判決が下された松本良夫(片岡正二郎)に冤罪の可能性があるとして、浅川と岸本が事件を追うところから始まるこのドラマ。第8話では、経理部へと異動させられた岸本がひとりで真相追及に没頭していく中で、大門副総理(山路和弘)の最大の後ろ盾となっている本城建託の長男・本城彰(永山瑛太)が真犯人である可能性が浮上、さらに2018年に殺された中村優香(増井湖々)が本城彰がもらったストールをDNA鑑定にかけたところ、3つの研究機関から、2006年に殺された井川晴美(葉山さら)のスカートから検出されたDNAと同一であるとの結果が出る。松本死刑囚が冤罪であるという決定的な証拠だった。
しかし、岸本はこれを報道部に持っていくも、『ニュース8』ディレクターの滝川雄大(三浦貴大)は取り合わない。やむなく、「週刊潮流」の編集長・佐伯(マキタスポーツ)を紹介してもらい、取り上げてもらうことになるが、その矢先、『ニュース8』が八飛市で起こった未成年売春あっせん事件を報じ、その中で八頭尾山連続殺人事件の被害者・中村優香が従業員リストに名前が載っていたと報じた。世間の関心は冤罪疑惑から、あっという間に被害者女性が風俗で働いていたという話題に移る。佐伯はこれを受けて記事を差し替え、冤罪疑惑の記事はお蔵入りとなってしまった。そして岸本が大洋テレビから突如解雇されてしまう……というところで第8話は終わった。
第9話冒頭では、2週間前に時間軸を巻き戻し、浅川が先の未成年売春あっせん事件のニュースを読むにいたる経緯が明かされた。浅川は、中村優香が風俗で働いていたことなど以前から警察は掴んでいたはずなのに、このタイミングで公表されるのは不自然だと主張。「週刊潮流」でスクープが出ることを知り、世論を誘導するための警察側からの印象操作ではと疑うが、プロデューサーの佐々木(神尾佑)に一蹴され、浅川はそのままニュースを読むことになったのだった。無力感を覚えた浅川は、岸本に連絡をすることはなかった。
そして時が戻る。岸本が自主退社したものだと思っていた浅川は、クビだったこと、さらに浅川とも面識のある「八飛署の刑事」にはめられた可能性を岸本が疑っていたことを知る。不審に思い、同期の滝川に懲戒免職の事情を探ってもらうと、贈賄と脅迫の疑いだった。岸本が、情報を得ようとして八飛署の刑事に金を渡そうとし、そのやり取りを録音し、さらに情報を求めたという。その刑事は金は受け取らなかったが、岸本から脅迫された状況を録音しており、大洋テレビ上層部に持ち込んだ……と滝川は説明する。「え、どういうこと? だって、その刑事はお金を受け取らなかったんだよね。じゃあ岸本君がそのときの会話を録音して脅迫するって、おかしくない?」と矛盾を指摘する浅川だったが、滝川は「でもまあそうらしいよ」と気にする様子を見せず、「番組を背負っている立場なんだから」と、浅川に岸本と距離を置くよう求めるのだった。