◆silent

“切なさ”で圧倒的に……そして想像以上に私たちを物語の世界に惹きこんだのは『silent』(フジテレビ系)。若年発症型両側性感音難聴を患い耳が聴こえなくなった青年・佐倉想(目黒蓮)と、彼を想う青羽紬(川口春奈)を中心としたラブストーリーです。しかし、これは本当に恋愛ものという括りでいいのかと戸惑ってしまうほど、恋愛ドラマの常識を裏切った作品ではないでしょうか。

新人脚本家・生方美久が紡ぐ台詞がとにかく美しく、そしてリアリティがありました。登場人物たちが皆、優しくて温かく、そして人間的。これまでの恋愛ドラマでは“分かりやすく”描かれるのがセオリーだった、ライバルや彼の家族の偏愛、嫉妬、暴走、といった要素が全くないのです。

人間が人間として、大好きな人や周囲の人たちを、家族を大切に想う……ただそれだけのことが、どうしてこんなにも切なく、こんなにも愛おしいのか。毎話描かれる登場人物たちの丁寧な心情描写に切ない涙がこぼれる、新しい恋愛ドラマに魅せられました。

◆PICU 小児集中治療室

医療もののなかで、ダントツに心に残った作品はやはり『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)でしょう。医療現場の厳しさと、そこに生きる人たちの営みと温かな交流。何より主人公・志子田武四郎(吉沢亮)が、全11話を通して医師としてだけではなく、人間として大きく成長する様を丁寧に描いていたと思います。

PICU 小児集中治療室
画像:フジテレビ『PICU 小児集中治療室』公式サイトより
医療ドラマとしての完成度の高さはもちろんのこと、精巧な人間ドラマとして私たちの心に訴えかける秀逸さも光りました。筆者の印象に残ったのは、拡張型心筋症を患った少年・圭吾(柊木陽太)の治療のために、別の病院の医師たちまでもが有効な治療方法について話し合うために集まったシーン。そして、圭吾と両想いの少女・優里(稲垣来泉)が武四郎に「圭吾を見捨てた」と詰め寄るシーンもムネアツ、号泣でした。

また、武四郎とがんを患った母(大竹しのぶ)のやり取りには、人間の生と死、大切な人との別れについて深く考えさせられました。