8組目 ヨネダ2000「イギリスで餅つこうぜ」

「女芸人№1決定戦 THE W」でも好成績をおさめた、実力派女性コンビ。結成2年目、今大会最年少でこの快挙は、才能の塊といって間違いない。「THE W」ではコントを中心に披露していたので漫才を見られるのが楽しみだ。

 そしてネタを見た感想は……「凄い!」だった。

 好き嫌いが別れるのは間違いないネタなのだが、ボケの数ではなくボケの種類がどのコンビよりも多く、エンターテイメントとしては他のコンビよりも優れていた気がする。

 特に前半がボケのジャンルが多く、笑わせ方の豊富さが尋常ではない。たぶん彼女たちはボケの種類を増やそうと意識しているのではなく、面白いものを集めた結果として種類が豊富だったのではないだろうか。これだけ種類が違う笑わせ方をさらっとこなしてしまうのはやはり、彼女たちの才能だ。

 もちろん結成2年目のたどたどしさもある。しかしそのたどたどしさですら武器にして違和感がある笑いを生みだしているのも客観視できているからだろう。

 今回のネタに関しては後半部分がヨネダ2000らしさが出ており良かったとも言えるのだが、逆にらしすぎて見慣れてしまった感もあり若干、笑いが落ち着いてしまった気もする。

 自分たちの”らしさ”に自信があると思うが、その”らしさ”から脱却し、今と違う”らしさ”を見せて欲しいと思う。

9組目 キュウ「世の中には全然違うものがたくさんある」

「M-1グランプリ」決勝戦、初出場。その独特な表現の漫才で少し前からメキメキと頭角を現し、とうとう決勝まで登り詰めた。臨場感やリアリティを徹底的に排除したキュウの漫才が、このM-1という舞台でどのように評価されるのか、とても楽しみである。

 ただ、出番がトリ前ということもあり、お客さん自体も少し疲労がたまっているようで、キュウ独特の静かな立ち上がりがあまりハマらず盛り上がるまでに時間がかかり、最後まで盛り上がり切らなかったように思えた。

 普通の漫才師なら会場の空気を読み、空気を変えるようなツッコミや一体感を生むボケを追加したり出来るのだが、キュウは最初から最後までネタが決まっており、アドリブが入るような漫才では無いので挽回する手立てがなかった。

 さらにボケの種類が1種類しかなく、セリフを変えようが、パターンを変えようが、そんなところに気づくのは分析しようとしている人間のみで、ただ笑おうと思っているお客さんにとっては同じようなボケをひたすらしているように思えてしまい、後半は少し飽きられていた気がする。パターン化するお笑いはハマれば強いのだが、ハマらなかったときはどうすることも出来ない状況に陥る。

 今回はハマらなかった典型的パターンだった。キャラクターもあり、経験値もあり、技術もあるコンビなだけに、2人の実力が存分に発揮できなかったことはとても残念だ。もしかしたら排除している臨場感やリアリティという元々漫才が持っている面白みを、エッセンスとして加えるときが来たのかもしれない。漫才は結局、基本が一番笑えてしまうから。

10組目 ウエストランド ファーストステージ・ファイナルステージ「あるなしクイズ」

 最後に登場したのは2020年のファイナリストで2年ぶり2度目の決勝戦進出を果たし、今回の「M-1グランプリ2022」の頂点に立ったウエストランド。結構若手の頃からテレビなどに出演し、その実力は広く知られていたがなかなか冠を手にすることが出来なかった。結成14年目にしてとうとう「M-1グランプリ王者」という最高の称号を手に入れた。

 ファイナルステージへ行った芸人の場合、2ネタの感想を書いているのだが、ウエストランドの場合、どちらも同じ「あるなしクイズ」のネタでさらに順番もファーストステージの最後、ファイナルステージの最初だったので続けて行ったので長尺のネタを1本見たと錯覚してしまうほどだった。

 なのでまとめてレビューさせてもらおうと思っているのだが、今回ウエストランドさんが優勝出来た理由はまさに「運」が味方したからだ。

 もちろんウエストランドに優勝するだけの実力があるのは知っている。しかし今大会は決勝戦に進出したどの芸人にも、優勝するチャンスがあったほど実力が拮抗していた。その中でウエストランドが飛びぬけたのは、他の芸人より「運」をもっていたからなのだ。

 本来なら不利な状況にもなりえる大トリという順番も、今回に関しては最高に良い順番だった。ひとつ前のキュウは比較的静かな漫才で、その後にウエストランドのような声を張り上げるようなネタをした場合、声量だけでも面白く感じてしまうものなのだ。さらにキュウの披露した、台本がきっちり決まっている漫才の後に、アドリブが強く見える漫才を披露したのも臨場感が強く出てお客さんが惹きこまれてしまう。

 言い方は悪いが今回に関しては、キュウの後だったことが全て、良い方向へ動いたのだ。

 さらに続けてネタをしたのもラッキーだった。続けてネタをするというのは芸人にとってかなりの負担で、これもマイナスに働いてしまうことがあるのだが、今回の場合はウエストランドがテンションそのままに、入りから笑いを起こし、そしてファイナルステージのネタと変わらない高いクオリティの漫才を披露したことにより、笑いにリセットがかからず、長時間笑っているような印象になるのだ。

 これを1本のネタと考えたときにファイナルステージへ通過した2組に比べると倍くらい長いネタをしていることになる。少しでも長い時間笑わせ続けた方が有利になるのは間違いなく、全ての順番が有利に働いた、というわけだ。

 さらにネタの内容も頭を使わせるようなネタではなく、お客さんも頭の片隅で思っているようなことを羅列していくネタだったので、共感性が高まり仲間意識が強くなる。そうなると笑い声もどんどん大きくなり、会場に一体感が生まれるのだ。

 やはり、笑い声というのは審査するうえで最も重要なポイントで、どれだけネタが優れていようがお客さんの笑い声を生みだせないのなら意味はないのだ。今大会で一番大きな笑い声を巻き起こしたウエストランドの優勝は、当然の結果と言える。ボケもツッコミも大声も展開も裏切りも何もかも一人でこなすという漫才の概念からは程遠い邪道漫才が優勝したのは、彼らの努力してきた結果であり、信念を貫き通した芸人の集大成であった。

 2年前の決勝戦で9位というウエストランドの結果に不満を持っていた僕としては、大満足の結果である。おめでとう。