4組目 ロングコートダディ ファーストステージ「マラソンランナーってかっこいい」

 キングオブコントの決勝戦常連でもあり、コントにも定評があるロングコートダディ。漫才もコントも高水準でこなすその姿は、まさに現代の芸人の象徴的な存在なのではないだろうか。さらに今回ファイナルステージへ進んだ彼らは、両方をこなす芸人のトップであることは間違いない。

 今までのロングコートダディが披露する漫才は「漫才風コント」という印象だったのだが、今回ファーストステージで見せた漫才はまさに「漫才コント」で、きちんと技術が上がっていることを証明していた。

ファイナルステージ「タイムスリップの練習」

 こちらもロングコートダディさんらしいネタで、ボケの流れや種類はわかり切っているが、そのワードセンスやタイミングなどで思わず笑ってしまう。ただ思わず笑ってしまうでは優勝できないのが、日本最高峰の漫才の大会「M-1グランプリ」。どうなるか予測がつくボケの爆発力には限界があり、予測不能なボケの爆発力には勝てないのだ。主軸となるボケ以外の枝葉的なボケで笑いを起こしてはいたが、やはり主軸に威力がなければトータル的な印象は爆発力に欠けたネタとなってしまうのだ。

 ロングコートダディの得意な手法として、客観的にツッコミをいれるというものがあるが、今回のネタは客観視しているときの説明が長く、オチがわかり切っているが故に、その説明が不必要に感じてしまい、「笑う」という態勢を無意識で崩してしまうのだ。人を笑わせるうえで説明というのは大事な要素だが、説明を入れる場所や秒数を間違えると笑いづらくなってしまうもの。漫才の繊細さが垣間見えたネタだった。

5組目 さや香 ファーストステージ「免許返納」

 2017年の決勝戦以来、ネタに改良を重ねて5年ぶりの決勝進出となった。さらに今回はファイナルステージにも勝ち進み、前回の決勝7位と比べてもその実力が上がったことも目に見えてわかる。さや香さんは勢いのあるベタなしゃべくり大阪漫才で、ネタの勢いは今大会随一だった。とくにファーストステージのネタは冒頭からエンジン全開で、その勢いのままネタの最後まで走りぬいたので、漫才の見せ方としては完璧に近かったのではないだろうか。

ファイナルステージ「男女の友情は成立する」

 出だしで少し噛んでしまい、緊張感なのか、疲労感なのか、お客さんが何かしらの違和感を感じてしまい空気が悪い意味で変わってしまった。さらにネタの内容が万人受けするものではなく、嫌悪感を抱く人もいるようなもので、ファイナルステージのネタは出来れば、万人受けするものの方が良かった気がする。

 ファイナルステージのネタも十分面白かったのだが、ファーストステージの漫才が完璧に近かったので「もっと笑わせてくれるんじゃないか」というハードルが上がり切ってしまった気がする。

 さらにボケの質がファーストステージに比べるとボケボケしていないので、笑える人と笑えない人が出てしまうものだったのも惜しい点だ。やはり漫才はボケとツッコミが明瞭な方が見ていて爽快であり、本能で笑う事が出来る。もしファーストステージのネタをファイナルステージでやっていたら果たしてどうなっていたのか。もしもなんて無いのだが、ついそう考えてしまうほど勿体ないという気持ちになってしまった。

6組目 男性ブランコ「音符運びをやってみたい」

 今回M-1グランプリ決勝初出場。「キングオブコント」でもファイナリストになっていることから、こちらもロングコートダディと同じように現代を象徴するハイブリット芸人だ。キングオブコントでの印象が強いのか、初登場なのかと驚いてしまった。

 今回のネタはお客さんの想像力を使うタイプの漫才で、さらにパントマイムの上手さが鍵となるネタ。どことなくバカリズムさんの都道府県の持ちかたを彷彿とさせてしまう部分があるので、ネタの設定としては少々勿体ない気がしたのだが、持ち方だけで遊ぶわけではなく、運ぶ際に必ずハプニングが起きてしまい、その部分がボケの主軸となっていくので、設定を越えていく面白さがあった。

 一番驚いたのは、お2人のパントマイムと表現力だ。多くの漫才師は体の使い方を研究していない。それもそのはずで、漫才というのはセンターマイクを挟んで会話をするという形がスタンダードで、霜降り明星さんのように縦横無尽に暴れまわるスタイルの方が少ない。会話を主体とするので、声の表現力や間の取り方に注視してしまい、体の表現力はおろそかになりがちだ。

 しかし男性ブランコのお2人は大学の演劇サークルで出会っており、演劇を勉強していた。演劇では体の表現力も芝居の重要なファクターだと言われている為、ほかの芸人よりも動きを勉強してきたのではないだろうか。それが活きたネタだった。体を使うネタは雑になればなるほど、笑いが起きにくい。ここまで丁寧に表現できるのは大したものだ。ネタの見せ方がオムニバス形式だったので、これがもっと繋がっているようなネタならば、お客さんのテンションにもリセットがかからず、もっと笑いが増幅したはずだ。

7組目 ダイヤモンド「変な言い方すんなよ」

 コンビ結成5年目で決勝進出は凄い。準々決勝の壁を越えられなかった2人がいっきに決勝まで来られたということは相当な努力をしたのだろう。

 ネタが始まるとやはり結成5年目ならではの緊張感に包まれており、見ている側まで緊張してしまい、笑いが起こりづらい状態になっていた。

 さらにはこの漫才の形式は、漫才に見えるのだがツッコミセリフ、ボケのタイミングや動きが固定されており、漫才ならではのアドリブ感が少なく、緊張感に包まれた会場をほぐすようなツッコミや客イジリのようなボケをすることが出来なかった。笑いが起こるまでに若干、苦痛な時間が強いられてしまったのではないだろうか。笑いが起き始めてからは波に乗っていたので、後半盛り上がっていったのだが、やはり前半のツケを回収するまでには至らなかった。

 さらにセリフやテンションが固定されているとお客さんとの温度差が生まれてしまうので、どうしても埋まらない溝が出来てしまう。ネタの内容も頭を使って楽しむもので、本能で笑うタイプのボケでは無かったのもいまひとつ盛り上がり辛かった要因かもしれない。

 そして最も僕が気になったのは、今回の漫才でボケをしていた野澤さんの喋り方だ。若干くぐもった声で、舌ったらずな喋り方に聞こえ、このような捲し立てるようなネタには合っていなかった。もし野澤さんをボケにするのなら、捲し立て方を変える必要があったかもしれない。もうすこし客観的に自分たちのネタを分析することが必要そうだ。