「性」を連想させるモチーフの数々
劇中には「シーラ・ナ・ギグ」という、実在する女性の外陰部を表した裸体の彫刻が登場する。美術史家の間でシーラ・ナ・ギグは、欲望への警告、女性の豊穣への敬意、魔除け、あるいは未知なる異教の女神への敬意、あるいは建築的なジョークなど、様々な説が唱えられているという。さらには葉で覆われたような「グリーンマン」という彫刻も登場し、こちらは自然への憧れ、男性の強さを表すという説があるものの、やはり本質は謎に包まれているようだ。
重要なのは、これらの彫刻が「人間の歴史上で続いていた、性を表しているようではあるが、不可解なもの」ということだろう。その他にも、劇中にはトンネル、廊下、種子、割れ目、木霊など「自然の生殖」と思われるモチーフが多数登場する。ポスタービジュアルにもある木から落ちるリンゴは、やはりアダムとイヴが食べた「禁断の果実」を連想させる。
そうしたところから、本作は潜在的、あるいは直接的に「性」そのものの不気味さ、あるいは神秘性、あるいは今に至るまで人類が繰り返してきた行為であることを認識させていく。それが極に達したのが、あの露悪的かつグロテスクなクライマックスであり、全ては「つながっている」と思うのだ。
さらに、アレックス・ガーランド監督は「この作品で僕がやりたかったことは、観客ができる限り自分を投影できるようなもの、物語の登場人物になったと感じられるような作品作りだ。この映画はある意味、奇妙な鏡のようなもので、観客はこの映画が自分にとって何を意味するのか、あるいは何も意味しないのか、それぞれが感じてもらえるはずだ」と語っている。この映画を「当事者」として感じられるかどうかは、この言葉通り「観る人次第」。だからこそ、不快なミソジニーや有害な男らしさの描写は必要であったし、それをあのクライマックスで「ストレートにぶつけられる」「おぞましく思う」ことに意義がある。
最後に余談だが、ガーランド監督は本作において、日本の漫画を原作としたアニメ『進撃の巨人』にインスピレーションを受けたと明言している。具体的にどこに影響を与えたのかは……やはりクライマックスから「ああ……」と納得できる方もいるだろう。
『MEN 同じ顔の男たち』
全国公開中
監督・脚本:アレックス・ガーランド
製作:アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
音楽:ジェフ・バーロウ、ベン・ソールズベリー
出演:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィ
2022年/イギリス/カラー/シネスコ/英語/字幕翻訳:松浦美奈/原題:MEN/100分/R15+
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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