エンタメとしても楽しめるが、現代的な問題も浮上する
この『MEN 同じ顔の男たち』あらすじは、「心の傷を癒すため田舎町へやって来た女性が次々と恐怖に遭遇する」とシンプル。場面によっては、主人公の背後に「何か」がいて、観客は「後ろ!後ろ!」と教えたいのに教えられないという、ホラー映画として定石とも言える演出がされている。恐怖の対象から逃げ惑う、または物理的に立ち向かうサスペンスも展開するので、十分にエンターテインメントとして楽しめるところもある。
そして、作品の中心に据えられているのは、はっきりミソジニーや有害な男らしさの問題だ。まず、主人公の夫の「脅迫の仕方」が最悪だ。離婚を切り出す彼女に対し「君が一生、罪の意識を背負うように、僕は命を絶つ」などと言うのだから。
風光明媚な自然の中にある田舎町にやってきても、男たちはひたすらに不快だ。彼らは初めこそ友好的または紳士的で、初めこそ「まともじゃないか」と心を許しそうにもなる時もあるが、次の瞬間ではっきりと侮辱の言葉をぶつけたり、問題の責任を彼女に転嫁させるような物言いをしたりもする。その様がとてつもなく気持ち悪いし、恐ろしいのだ。
シンプルなホラーとして展開し、ミソジニーや有害な男らしさの問題がはっきり現出した後は、もはや「わけのわからない」不条理な展開へとなだれ込む。エンタメから逸脱して、笑ってしまうほどにシュールなアート的な映画に転向する印象もあった。露悪的かつグロテスクなクライマックスを抜きにしても、そこは大いに賛否両論が分かれるだろう。だが、後述する象徴的なモチーフを踏まえて、考察をしてみるのも面白い内容ではあるはずだ。
なお、同様のテーマを描いた映画は、MeToo運動が起こった後に多数生まれている。2022年公開作では『バーバリアン』『ドント・ウォーリー・ダーリン』『あのこと』『ザリガニの鳴くところ』もそれに当たるだろう。
さら2023年1月13日には、ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を告発した2人の女性記者の回顧録を映画化『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も日本で公開される。男性こそ、これらの映画でこの問題に触れ、良い意味で居心地が悪くなってほしい。
田舎町で出会う不気味な男たちは、いずれもロリー・キニアという同じ俳優が演じている。公式サイトのあらすじでは「ハーパー(主人公)が街へ出かけると、少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが管理人のジェフリーと全く同じ顔であることに気づく」とあるが、映画本編では明確にそう気づいたとする描写はなかったように見えたし、この映画を観る観客の多くも男たちが同じ顔だと気づかないままでいるのではないか。
だが、男たちが同じ顔だとはっきりと気づかない、「そう言われればそうだったかも」とぼんやりと思える、「潜在的にすり込ませる」ような印象もなんとも不気味だ。ミソジニーな有害な男らしさを持つ男たちの本質は、年齢や立場が違っても「根っこ」が同じだという解釈もできるだろう。