◆新たな歴史を刻む試み
前作、シリーズ放送40周年を記念して今年2月に放送された『軽井沢殺人事件』(テレビ東京系)で、令和版・浅見光彦を好演した、我らが岩ちゃん。お坊ちゃまキャラを地で行く彼だからこそ、この歴史的キャラクターが、令和の時代に新しく息を吹き返した。
1180年、関東で挙兵した源頼朝公ゆかりの鎌倉に、今回舞台が設定されたことは、シリーズが歩んできた歴史をさらに一歩先へ布石を投じる試みだったはず。ここで、本作のミステリーを解き明かす歴史的なキーワードが重要になってくる。
幽体離脱をして犯人の姿を俯瞰の位置から目撃したという曾宮一恵(久保田紗友)だが、両親が言い残した「紫式部に乾杯」が意味するものとは。古都、鎌倉で起きた殺人事件の謎を解明する光彦が、その謎のキーワードを探るため、次に訪れるのが、京都。鎌倉よりさらに歴史が深いこの都で、また新たな一頁が開かれる……。
◆マスターピースの予感!
「見るほどぞしばし慰むめぐりあはむ月の都は遙かなれども」
美しい歌である。紫式部による『源氏物語』の12巻「須磨」で光源氏が、遠く京の都を想って詠んだ一首。一恵の両親が営んでいた和菓子店「芳華堂」で、ふと上の方を見上げた光彦が、この歌の上の句を詠み上げる。この瞬間ばかりは、役柄を超えて迫り出してきた岩田剛典が、何とも奥ゆかしく映る。これが岩田剛典のリアルなんだと、彼は同時に、そう言いたげでもある。
ついこの間から、ソロアーティストとして、歌手デビューした岩ちゃん。彼の歌心が、こうもストレートでかつ叙情的な表現で織り込まれる。それが本シリーズの深い歴史性と共鳴しながら、物語の核心へ向けて、丁寧に掘り下げられていく。
さりげなくも、大胆。それでもなお奥ゆかしい岩ちゃんを味わうには、十分なこの名場面が、新たな1ピースとしてはめ込まれた本作。これは、シリーズ屈指のマスターピース(傑作)の予感!