『ザ・ノンフィクション』ラブレターにも“センス”が問われる

 学生の頃、女友達がもらったラブレターを見せてもらったことがあるが、見事なポエムで度肝を抜かれた。女友達も、自分一人ではその愛の重さに耐えきれなかったのだろう。送り主は同級生の男子で、私もその人のことは知っていたが、こんなラブレターをしたためるような人には見えず、そこにもびっくりした。

 その彼にしてみれば、これがベストで全力の、最高のラブレターだったのだろう。歌に“音痴”がいるように、ラブレターにおいても壊滅的にセンスのない人はいるのだと知った。今回の放送を見て「ラブレターくらい自分で書けば」と思った人もいるだろうが、代筆サービスを利用したほうがいい人は案外いるのかもしれない。

 小林の代筆するラブレターは、受け取った側の重荷にならないよう配慮が行き届いており、かつ、状況が目に浮かぶ描写力がある。ただ、文章ではそんな気遣いを見せる小林だが、前述のように、家族、特に妻の前では寡黙で素っ気ない。

 「妻の前では配慮や気遣いスイッチがオフになる夫」自体は珍しくないが、小林の場合、副業でラブレターを書いているのだから、やろうと思えば愛情や感謝を表現することは、むしろ人並み以上にできそう。なのにその態度はないだろうと、妻のやるせなさを思う。

 番組内では小林家を取材していたシーンもあったが、台所でカレーをよそいながら妻は「こうやってご飯作るの、愛情表現だと思っているので」と話していて、これは小林が綴る美文よりも愛情表現として力強い説得力があった。愛は一時の耳障りのいい言葉ではなく、相手を思う日々の継続した行動でこそ伝わるものではなかろうか。

 次週は日中共同制作第11弾「遠く故郷を離れて ~この国で命を救う人になる~」。山間部に多くの過疎地域を抱える鹿児島県・大隅半島――「地域医療最後の砦」といわれる大隅鹿屋病院で働く中国出身の朱海医師に密着するという。言葉の壁、新型コロナウイルス、そして迫りくる観測史上最大級の台風の中で奮闘する姿を見つめる。