妻は小林について「何考えてるんだろうって思うこともあるし、そんなに自分のこと言わないから。私に対しても、興味がないって言ったら変なふうに聞こえちゃうかもしれないけど」と“暖簾に腕押し”な状況だと話す。そんな妻の切実な言葉に対しても、小林は目を合わすこともなく「なるほど」と返すだけだった。

 2人目の代筆依頼者は、横浜で町中華を営む81歳の阿部。手紙を送りたいのは40年間音信不通の娘だ。阿部は脱サラして中華料理店を始めたのだが、子育ては妻に任せきり。妻はサラリーマンに戻ってほしかったようで、夫婦はすれ違っていき、娘が4歳の時に離婚した。その後、阿部は子どもたちの養育費は払ってはいたものの、一度も会っていないという。

 今になって阿部が娘に会いたいと思ったのは、20年連れ添った女性を昨年亡くしたことが影響しているように思われた。小林は阿部の店にも足を運び、常連がくつろぐ店で阿部の料理を食べる。そして、代筆した手紙には阿部の娘が小さかった頃の思い出や、よかったら店に来てほしいという願いを綴る。投函から1カ月たっても娘からの返信はないようだが、送ったこと自体は、阿部にとっていい区切りになったようだった。