衝撃のニュースが飛び込んできました。「月光」や「眩暈」などのヒット曲で知られるシンガーソングライターの鬼束ちひろ(41)が、11月28日に器物破損容疑で逮捕されたのです。
鬼束ちひろ「スロウダンス」(2021)
渋谷区のパチンコ店で同席していた知人女性が体調不良を起こし、救急搬送される際に鬼束容疑者と通行人の間でトラブルが勃発。激昂した鬼束容疑者が、救急車のドアを蹴飛ばしたというのです。その後、薬物検査を受けたとの報道もありましたが、11月30日には釈放されました。
なぜに「自称シンガー・ソングライター」?
そんななか、朝日新聞の記事が物議をかもしました。逮捕直後の28日、鬼束容疑者の職業を、「自称シンガー・ソングライター」と表記したのです。これに、脳科学者の茂木健一郎氏が反応。自身のツイッターに、「一部新聞社が『自称シンガーソングライター』と表記していたことが炎上していた。当然だと思う。あれだけ実績のある方に『自称』とつける意味が全くわからない」と投稿し、賛同する意見が多く集まったのです。 (その後、11月29日夕方までに、朝日新聞は当該記事から「自称」の記述を削除し、修正しました。) 今回のケースに限らず、容疑者の職業や肩書については、議論を呼ぶケースが多く見られます。“自称・会社員”とか“自称・音楽ライター”(あ、オレか)とかの報道を目にすると、多くの人は“自称”という響きによって、様々な事情を飲み込んでしまう。ある種のマジックワードですね。
“自称”をつける基準とは
“自称”と但し書きをつけるかどうかの判断については、一応基準があるのだそう。 ポイントは、その仕事によって生計を立てているかどうか、さらに、その職業が事実だと警察が裏を取れているかどうか。本人が名乗った職業でも、生計を立てていないとか、裏が取れてない場合は、“自称●●”と発表されるわけです。(参考:朝日新聞社『withnews』2014年7月17日) では、今回の鬼束容疑者のケースはどうだったのでしょう。あくまでも推測ですが、本人が話しただけの段階で警察が“自称”と発表し、朝日新聞がそのまま書いてしまったのでしょう。
でも、それで片付けるには、<I am God’s child この腐敗した世界に堕とされた>(「月光」作詞・鬼束ちひろ)というフレーズは、あまりにも強烈すぎました。発売から21年経ったいまも、世代を超えてインパクトを残す1行をもつ楽曲。ほとんどのソングライターがここまでの爪痕を残せないことを思えば、鬼束ちひろを“自称シンガーソングライター”と呼ぶことが、どれだけナンセンスかわかるはずです。