◆スマホでもすれ違いや切なさを演出

 第3話では湊斗から親友・想への思いが爆発し、続く第4話で、紬の家で想とふたりきりになった湊斗が、「UDトーク」を介して話をした。久しぶりの再会に思いを止められない湊斗は、「UDトーク」が音を拾いきれないキッチンでも話を続けてしまう。想には、マイクの反応から湊斗が話し続けていることだけが分かり、何を言っているのかは分からない。

 紬と湊斗が別れを決めたあとの、第5話での紬と湊斗のスマホを介した会話シーンもとても印象的だった。それぞれの家から、スマホで会話するふたり。映像は手のふさがっていた紬がスピーカーにして話す姿を映し続け、湊斗が泣いていたことを最後に見せた。また「顔見たら泣いてた」「なんで泣くの?」と交わしながら、スマホ越しにふたりとも泣いている(それも互いに気づいている)という演出も非常に切なかった。

◆登場人物の胸の内を映し出すスマホ

 第6話のラストでは、奈々(夏帆)の姿に涙した人も多いだろう。夢の中、想とスマホで話して落ち会い、憧れの青いハンドバッグを片手に、もう片方の手は想と手をつないで話しながら歩く。そして現実の世界、泣きながら歩く奈々に、想から音声着信が入る。奈々のもとへ駆け寄った想の目をまっすぐに見つめながら、スマホを耳にあてる奈々の全身から思いがあふれていた。

 第7話では、紬と想が関係を取り戻したが、かつてと全く同じというわけにはいかない。中途失聴者の“多く”が声で話すと聞いた紬が、素朴な疑問として「声で喋らないの、なんで?」と想に尋ねた。話したくない理由を抱える想は、「声がすきなんだもんね」とテキストに入力するも、それを消してスマホを置く。第1話での検索履歴を「消す」行為もそうだが、消したことを視聴者に見せることによって、登場人物が飲み込んだ心の内を視聴者にだけ伝える。

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 フジテレビヤングシナリオ大賞の昨年の受賞者で、これが脚本家デビュー作となる生方美久の紡ぐ世界は美しく、繊細で、なおかつ痛みも含んだリアリティを伴っている。そこにはさまざまな小道具使いや、印象的なセリフも数多いが、スマホをドラマチックアイテムへと復活させた功績も大きい。加えて演出、映像、思いのこもったキャストたちの演技が一層引き付ける。物語の先が楽しみであるとともに、終盤に入ってきたことが切なくて仕方ない。

<文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi