◆もどかしさやドラマチックさを演出

もどかしさやドラマチックさを演出
写真はイメージです。(以下同じ)
 たとえば宇多田ヒカルの楽曲を基に、1998年から2018年までの20年間を見つめた、現在Netflixで配信中の佐藤健、満島ひかり主演のドラマシリーズ『First Love 初恋』には、1998年に高校生だった恋人たちが使うアイテムとして、まさに家電が登場。回線が混線するという現象も描かれるが、これも若い世代へはなんとも説明が難しい。大学進学で上京したヒロインが、携帯電話のアンテナを立てて、部屋の中で電波を受信しやすい場所を探すといった描写もある。現在、かろうじて見かけることのある公衆電話も、映像における見映えも含め、素敵なアイテムだった。

 とにかくかつて生活は不便で、しかしドラマチックだった。そしてフィクションの中で、恋人たちのすれ違いを多く生み出してきた。待ち合わせには場所と時間をきっちり決める。そうしないと会えないのだ。5分違いで思い合うふたりが同じ場所にいたり、歩道橋の向こうにいる相手を見かけても、そのまま相手がタクシーに乗ってしまうといったすれ違いを、視聴者だけが目撃し、もどかしさにもだえ、「やっと会えた」のカタルシスを感じてきた。

 いまや生活は便利になり、ドラマチックさは減った。だが、『silent』ではとても効果的なガジェットとして溶け込んでいる。それは聴者がろう者と会話する際に使う、音声認識アプリ「UDトーク」やテキストの利用といった使い方に留まらない。

◆「消す」ことで視聴者だけに伝える気持ち

 第1話で、紬から想を見かけたと聞いた湊斗(鈴鹿央士)が、スマホで「佐倉想」と検索をかける。それ以前に並んでいるのは不動産屋や居酒屋検索といった履歴だ。そして「佐倉想」の履歴を削除する。今、想がどこにいるのか知りたい、何をしているのか知りたいという気持ちを紬に知らせずに「消す」。ほどなく紬も「佐倉想」と検索し、同様に削除した。同じく第1話では、高校時代の想と湊斗のサッカー部顧問だった古賀先生(山崎樹範)が、言葉とは裏腹に、今も想と連絡を取り合っていることを、LINEの画面を映すことだけで伝えた。

「消す」ことで視聴者だけに伝える気持ち
 第2話では紬と想が再会。想の耳が聞こえていないと知り、また自分を拒んだことにショックを受ける紬に、湊斗がスマホで「パンダ、スペース、落ちる」と癒し動画を検索して自分が駆けつけるまで待つように伝える。湊斗の優しさと、紬への思いが伝わってくる(第3話で見せた紬と湊斗の再会当時の場面では、パソコンで「犬と猫、スペース、仲良し」と癒し動画を検索)。