通訳というのは、稀有な職業だと思います。確かに事前準備は大変です。寝る間も惜しんで早急に知識をインプットせねばならず、日本語・英語双方で瞬時に訳せるようにしなければなりません。両言語のトレーニングのみならず、いろいろなシナリオを考えて備えることも求められます。宇宙飛行士は最悪の事態を考えて訓練していますよね。そこまでとは言わないにせよ、通訳者も様々なシチュエーションを考えて本番まで準備を進めます。プレッシャーは高く、体調管理も必要。私など当日に緊張で過呼吸になりかけたこともあります。でも、自分が選んだ仕事。ゆえに真正面から立ち向かわねばなりません。ちなみにスポーツ選手は本番前に音楽を聴いて集中力を高めます。私も一時期、自分を鼓舞するアップテンポな音楽をガンガン聴きながら現場最寄り駅まで向かったことがありました。

そうした緊張感がある一方、仕事を通じて得られる喜びも多大です。何しろ自分が知らない知識を学べるチャンスなのです。仕事でなければ決して紐解かないような書籍や資料を読み、単語リストを作れば作るほど勉強している達成感も味わえます。未知の分野に触れることで自分の視野も広がります。これほど幸せな職業は無いと私は思うほどです。たとえ大変であっても、やりがいや生きがいにつながる。それが日々の自分を支えてくれるのですね。

一方、人は生きていれば照る日曇る日に見舞われます。私もこれまでいろいろな状況に直面してきました。適当に流して何とか早々に忘れられたこともあれば、なかなか厄介になって長期化してしまったケースもあります。サイボーグのような魂ではないので、これも人間として自然な反応なのでしょう。

この仕事をしていたからなのか、私生来の性格なのかはわかりませんが、こと私の場合「自分さえがんばれば何とかなる」という思い込みがあるのですね。「努力すれば、あるいは我慢すれば、ゼッタイに切り抜けられる」という、科学的根拠ゼロの思い込みがあります。もちろん、それで突破できれば良いのですが、そうもいかないのが人生というもの。そのような時、家族や友人、あるいは専門家のサポートにずいぶん救われてきました。けれども最近の私にとって最大の解決法となったのは「強制休暇」でした。