柿沼ペット病院 柿沼綾子先生

噛傷事故の中でも数が最も多いのに表面に出てこないものは、『飼い主に噛みつく犬』ではないでしょうか。

私が実際に対面した『飼い主に噛みつく犬』というのは、ほとんどが人間によって痛い思いを受けた経験のある犬でした。『しつけ』という名目で、ささいな間違いをしただけで痛い思いさせられた犬が、気持ちがすさんで噛みつくようになっており、私が相談を受けた中では、驚くほど同じ経過をたどっているものがみられました。

【獣医師監修】噛傷事故(噛む事故)を防ぐために
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

飼い主が食事をしている時、食べている物を床にこぼしていまい、犬がそれを拾ってしまった場合を考えてみましょう。

case 1

飼い主は拾い食いの癖がついては困ると思い、取り上げようとしたが、犬が食べてしまった。そこで飼い主は、犬が懲りるよう、怯えきってしまうまで犬を殴りつけた。

というものです。

これを犬の立場で考えてみると、『おいしそうに食べているから、何だろうと思って食べただけなのに、どうして叩かれたんだろう。こんな痛い思いをするのはもう嫌だ。飼い主の手がボクに近づいてきたら気をつけよう。』と考えても不思議ではありません。

飼い主が『拾い食いをしたらダメだぞ』と教えようとした行動が、犬にとっては全く別のことを学ぶきっかけになってしまったわけです。

これのような例でないにしても、

  • オスワリの練習をしていた時に、従わなかっただけで叩く。
  • 交通量の多い道で、車に怯えて動けなくなった犬に、無理矢理リードを引き、首にガンガンとショックを与えて歩かせようとする
  • 動物病院に来て不安な犬に向かって、犬が少しでも動くと『じっとしてろ』と大きな声で怒鳴りつける。
  • 小さな犬を抱き上げるのに、前足を力一杯握って持ち上げる。
  • ブラッシングをする時、ブラシがごつごつ体に当たっているのに平気。

など、飼い主自身が気付かぬうちに犬を追いつめてしまっているケースはたくさんあります。犬の気持ちを無視して、不必要な苦痛を与えてしまうことで、あるものはすっかり無気力になり、表情が無くなってしまいます。

また、別のタイプの犬は反抗的になり攻撃性が増し、ちょっとした事にでもうなり声をあげ、飼い主が力で押さえつけようとすればするほど、犬の方も力づくで対抗してきます。

『犬が怯えから飼い主を噛み、それを怒った飼い主がメチャクチャに犬を殴りつける』、このようなことをきっかけに、お互いの関係がすっかりまずくなってしまう例も多いといえます。

【獣医師監修】噛傷事故(噛む事故)を防ぐために
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)
【獣医師監修】噛傷事故(噛む事故)を防ぐために
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

号令を教える時は、飼い主も犬もお互いが楽しくなるような工夫をしましょう。飼い主自身が快活に、そして上手にできなくても叱るのではなく、犬が失敗しないように手伝ってあげて、上手にできたら、ほめてあげる事が大切です。

怒鳴ったり、抑えつけるような大声を聞くことは、人間にとっても、あまり気持ちの良いものではありません。

『どうして飼い主さんは、いつもボクを大きな声で怒鳴るんだろう。何を怒っているのかな?』と犬が感じたら、号令を覚えるどころか、飼い主への信頼までも無くしてしまいます。