墨田区の水泳・介護用品メーカー「フットマーク」が、性別にかかわらずデザインが同じ水着「男女共用セパレーツ水着」を開発した。今まで体型を隠すためのスクール水着は開発されていたものの、男女で兼用できるサイズや形の商品はなかった。
性別の違いによる水着の選びにくさを少なくし、体のラインや性別を気にせず水泳の授業に参加できることを狙いとしている。2022年度は3校が導入予定で、30校が2023年度の導入を検討しているそうだ(6月17日時点)。
スクール水着では初となる取り組みが導入されることで、どのような学校現場における現状や今後の課題がみえてくるのだろうか。自身もトランスジェンダー男性であり、LGBTQの子ども・若者の課題に取り組む認定NPO法人ReBitの代表理事、藥師実芳(やくし・みか)さんに話を聞いた。
すべての子どもたちのための選択肢
名簿や制服、ランドセルの色など、学校現場における男女分けに悩みを抱える子どもたちは多く存在する。2015年に文部科学省が全国の小中高・特別学校へ、性的マイノリティの子どもへの対応や配慮を求める通達を出したこともあり、学校現場における選択肢の広がりも少なからず見られるようになってきた。
「性別やセクシュアリティなどの属性に関わらず、すべての子どもたちにとって選択肢が増えることに意義があると考えています。最近では、多くの中学校、高校で、性別によらず制服を選べたり、スラックスを導入するなど、自由な選択肢が増えています」(以下、藥師さん)
しかし、ここで問題視しなければならない点があるという。
「性別によらずスラックスが選べる中学・高校が徐々に増えていますが、テレビやメディアでは度々『トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性と自認する性が異なる人)の子どもたちのための対応』と取り上げられることも少なくありません。
スラックスを履きたい生徒は、トランスジェンダーの生徒だけではありません。いままでスラックスを履く選択肢がなかった女子生徒からも、導入されてよかったとの感想もあります。一部の子どもたちだけのものだと聞こえてしまう表現を使うよりも、すべての子どもたちが自分らしい選択ができることがより大事です」
“お下がり”の水着がもらえなくなることも
学校現場における服装の選択肢の広がりは、今回の男女共用セパレーツ水着にも関連する。男女共用セパレーツ水着は、男女で身体的に差が出る部分がゆったりとしたシルエットになっている。体型の違いが目立たないデザインを採用したことで、多くの子どもたちたちが抱える悩みを少しでも解消できるのではないだろうか。だが、このような問題も考えられるという。
「新しい水着のみを授業で着用可能な水着とすることで、兄弟や友人間でお下がりの水着を引き継げなくなることも考えられます。このことは、経済状況が厳しい家庭にとっては大きな問題となり得ます。
導入する予定の多くの学校では、従来型と男女共用型から選択できる形にするようですが、もし指定制を採用するならば、出費が負担になる家庭も増える可能性もあります」
SNS上では「泳ぎづらそう」「多様性の時代にデザインを統一するのはおかしい」などといった批判的な意見も。だが、それらの意見は、実際に学校で過ごす子どもたちによるものだろうか。藥師さんは、現場にいる子どもたちの声が学校や教育委員会に届くことが重要だといいます。