次の持ち込み先にE社を選んだIさん。E社は絵本を扱っていないため、評伝のほうの企画のみをアップデートしました。持ち込むにあたって、なぜE社に本書を託したいのか、Iさんはあらためて考えてみたそうです。

既存の刊行ラインナップとしての接点はぎりぎりセーフという印象を受けたものの、編集者さんもE社もおもしろそうなので、一緒にお仕事ができるとうれしいというのが、まずは正直な気持ちでした。

「こういう動機はダメでしょうか」とIさんからのメールにありましたが、「おもしろそう」という感覚的なものは、大事にしたほうがいいと思います。頭で考えると合っているはずなのに、心が動かないことって、ありますよね? 論理的にはこうするのが正しいはずなんだけど、どうも気が乗らない……そういう場合は何かとトラブルが起きてくるものです。逆に、論理的に考えたら絶対に却下されるはずのことでも、やってみたいと感じたら、動いてみることで、おもしろい展開があるんですよね。

また、Iさんは、E社の刊行ラインナップが自分のツボとけっこう合致することに気づきました。E社はアート系の出版社ではなく、自己啓発書やビジネス書が主力です。Iさんも、今回の企画はアート系とはいえ、基本的に自己啓発書やビジネス書が大好きで、翻訳家としても、その分野をメインにされています。そんなIさんにとって、新しい視点を与えてくれた本という意味で、E社にもアプローチできるかもしれないと考えたのです。

こんなふうに、相手との接点を探って、どの部分をうまく重ね合わせられそうか考えていくことも大切です。これは人間同士の場合にも通じることですが、接点を見つけると親しみを覚えることって、多いのではないでしょうか。たとえば、自分とは全然違うタイプの人に思えても、出身地が同じだったり、出身校が同じだったり、同じアーティストが好きだったりすると、相手がぐんと身近に感じられてきます。それと同じで、出版社の場合も、自分の企画や経歴の中に接点を探ることで、アプローチの方向性が見えてきます。