感覚過敏に関するプロダクトの数々
──起業後は、さまざまな事業を展開しながら感覚過敏の課題解決に取り組んでいますよね。これまで加藤さんが生み出してきたプロダクトやシステムには、どのようなものがありますか。
加藤:まず一番最初に作ったのは、感覚過敏を可視化するキャラクターです。目に見えない症状を見えるものにするため、キャラクター化して感覚過敏マークを作りました。子どもたちが自ら進んでそれぞれの症状を人に紹介できるよう、かわいいデザインのキャラクターにすることに注力しました。今はそれらを缶バッジにして販売しています。
またコロナ禍では感染予防対策のためマスクが欠かせないものになりましたが、触覚過敏の人にとってマスクを着用することはつらいものです。そこでその課題解決の第一弾として、感覚過敏によりマスクが着けられないことを意思表示するカードを無料配布し、その後飛沫対策として「せんすマスク」も作りました。
また、触覚過敏の人がストレスなく服を着られるよう、縫い目を外側にしたりタグを無くした衣類を作るアパレルブランド「KANKAKU FACTORY」を立ち上げ、パーカーやTシャツなどを開発しました。触覚過敏の僕自身が数百種類のサンプルから厳選した生地を採用したり、いろいろな工夫を施しています。
そして今年の夏は、皆がそれぞれの五感を通じて感じた情報を地図化する「センサリーマップ」を自由研究で作るような企画も進めています。例えば、感覚過敏の方が避けるべきエリアを提示したり、逆に「ここは良い匂いがするよ」というようなことを表したりするようなマップです。
今回は感覚過敏研究所の企画として小中高生向けに開催していますが、商業施設や公共施設で取り組んでほしい試みです。商業施設や公共施設が五感情報のマップを作成くださると、五感のストレスの少ない状態で買い物したり、遊ぶことができます。そんなセンサリーマップを作る事業を広げたいです。
感覚過敏の当事者・家族が参加できるコミュニティも
──開発する上で、どのようなところからアイデアを得ているのでしょう。
加藤:感覚過敏の当事者とその家族が参加できるコミュニティ「かびんの森」を立ち上げたのですが、そのメンバーの皆さんからいただいた意見がもとになることが多いです。また「せんすマスク」は、SNSで「空中に浮くマスクみたいなものを作りたい」とアイデアを募った結果、生み出された商品です。
先ほどお話したように、僕は人と一緒に何かをすることをとても大切にしていますし、また他の人の意見を聞くことによって、自分の常識の外にあるまったく新しい気づきや発想が生まれると考えています。
──コミュニティの中でお互いの意見を交わすことにより、創造力が生まれていくんですね。
加藤:そう思います。あとはこうしたコミュニティに属することで、自分の居場所を作ることができて、居心地のいい環境に身を置くことができるというのも良いことだと思います。
「かびんの森」では、聴覚過敏のメンバー同士がお互いに使っているイヤーマフの情報を交換したり、感覚過敏の子どもをもつ親同士が子育て上での困りごとを話し合うなど、それぞれが抱える課題をみんなで共有しあっています。そうして「同じようなことで悩んでいる人がいる」と安心したり、また「こんな困りごとがあるんだ」と新たな気づきに繋がったりすることもありますね。
そんななか、例えばある味覚過敏の人が「カップラーメンを食べていて、いつもと味が違ったのでメーカーに問い合わせたところ、工場のラインに不備があったことが発覚した」という声や、「気温の変化に敏感だからこそ、看護師として病室のわずかな室温変化に気づくことができる」といった声が聞かれたり、僕自身も驚かされることも多いんですよ。