犬が動物病院に来院する最も多い理由のひとつに皮膚病があります。その中でも、最近特に問題になってきているのがアトピー性皮膚炎です。10年ほど前までは、犬にもアトピーがあるの?と驚く飼い主さんは多かったと思います。最近では飼い主さんのほうから、この子はアトピーでしょうか?という質問を受けることも少なくありません。では、アトピーとはどういう皮膚病なのでしょうか。
犬のアトピーの大きな特徴のひとつは「かゆみ」になります。ただし、引っかく、なめるなどのかゆみを示す犬の全てがアトピーというわけではありません。では、皮膚がかゆくなる原因には何があるのでしょうか?
犬の代表的なかゆい皮膚病には、感染症とアレルギーがあります。感染症は、細菌、カビ、寄生虫などの病原体が、犬の皮膚でたくさん増え過ぎてしまう病気です。これらの病原体が増えると、皮膚では強い炎症反応が起こります。この炎症反応によってかゆみが引き起こされるわけです。
ではアレルギーの炎症反応を引き起こす原因は何でしょうか。この原因物質は非常にたくさんあり、総じてアレルゲンと呼ばれています。このアレルゲンによって炎症反応が引き起こされ、かゆみを生じる皮膚病をアレルギー性皮膚炎と呼んでいます。たとえば、ノミをアレルゲンとするノミアレルギー性皮膚炎、食物をアレルゲンとする食物アレルギー性皮膚炎、などがあります。
アトピーもアレルギー性皮膚炎のひとつです。それではアトピーのアレルゲンは何でしょうか。「アトピー」という原因物質があるのでしょうか?
アトピー(atopy)は、ギリシャ語の奇妙なこと(atopia)から来ているといいます。これはアトピーがどのような原因によって炎症反応を起こすのかよくわからない、「奇妙な皮膚病」だったために、このように呼ばれるようになったと考えられます。
人と同様に犬でもアトピーの研究は盛んに行われ、いろいろなことが解明されてきていますが、今でも不明な部分の多い奇妙な皮膚病であることには変わりありません。それでも、アトピーになりやすい犬種や、症状が現れやすい部位、アレルゲンにはどのようなものが多いか、などいろいろなことが分かってきています。
中でも特に問題になるアレルゲンは、室内のホコリの中に潜むチリダニ(ハウスダストマイト)と呼ばれる小さなダニです。このダニは、皮膚に感染するダニとは異なります。正常な犬の体に触れても、特に害はありません。
しかし、このチリダニをアレルゲンとするアトピーの犬が触れると、強い炎症反応が起こりかゆみを生じるのです。
それでは、家の中のホコリをすっかりきれいにすれば、このようなアトピーの犬は良くなるのでしょうか。確かに、それもひとつの方法です。良くなる犬もいるかもしれません。しかし、この奇妙な皮膚病の最も奇妙なところは、アレルゲンと思われるものをすっかり取り除いても、なぜか良くならない場合があることです。
実は、アトピーの犬では、チリダニのほかにも、花粉、食物、ノミなどの複数のアレルゲンを持っている場合があるのです。このように、本来は害のないさまざまな物質をアレルゲンとしてしまい、これらに触れることで炎症反応を起こしやすい体質を持っているのが、アトピーの犬の特徴です。このような体質はアトピー素因と呼ばれています。この体質は、おそらく遺伝的に決まっていると考えられており、アトピーが治りにくい根本的な理由はここにあるのです。
アトピー素因を持っている犬を正常な体質に戻すことは、おそらく非常に困難です。ではアトピーの犬には、どのようなことをしてあげたらよいのでしょう。 アトピーの犬のかゆみをどのように管理していくのか、次のようなアトピーの大きな3つの問題点から考えてみたいと思います。