宇野さんと北村さんがいなければ撮れなかった
――その間、議長と副議長を演じた宇野さんや北村さんとの関係性は深まっていきましたか?
磯村:年齢はばらばらですが、よくこんなに息が合ったなというくらい相性がよかったです。撮影のインのときからシンパシーを感じ、今でもこの3人はすごく仲が良いです(笑)。
宇野さんと北村さんがいなければ『ビリーバーズ』は撮れなかったなと思います。重たいテーマ性の『ビリーバーズ』が深刻な雰囲気の作品にならなかったのは、宇野さんが一本芯を通してくださったからだと思います。北村さんは肝が据わっていました。貪欲に向かっていく精神がカッコよかったです。
――それが議長、副議長、オペレーターという役柄としても相乗効果だったわけですね。
磯村:その通りです。
「男2人に女1人」の三角関係
――議長、副議長、オペレーターは、役職は与えられていますが、身元がよく分からず、先生と呼ばれる指導者の言葉を信じて共同生活を送っています。この3人の妙な関係性についてはどう思いますか?
磯村:端から見たら、おかしいですよね(笑)。それがこの関係性の面白さであり、物語の妙です。男2人に女1人という構成によって、人間らしさを感じられるんだと思います。
――2人の男と1人の女の三角関係は、物語が生まれやすいと思います。フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(1962年)やロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』(1967年)など、フランス映画でも多く語られていますが、参考にした作品は、ありますか?
磯村:僕は、作品に入るときにあまり他の映画作品を参考にしません。そこはオリジナリティでいきたいんです。原作を最初読んだイメージとして、『ミッドサマー』(2019年)やラース・フォン・トリアー監督の作品など、浮かぶものはありました。
理想の「共同生活」とは
――3人が共有する共同体意識は独特なものです。磯村さんが理想とする共同体、もしくは、共同生活は、どんなものですか?
磯村:共同体って絶対に無理だと思うんです。人間は、ひとりひとり違うので、手を取り合おうと思っても、どこかに個人がでてきてしまいます。それが亀裂を生むと思うんです。
議長、副議長、オペレーターの3人暮らしでも、亀裂が思わぬ方向に進んでいきます。議長は途中から人間の本能が剥き出しになっていき、これは人間関係の縮図だなと。そう考えると、僕らは一生、運命共同体というのが難しいのではないかと。
――その意味で、3人がとにかく一日中叫んでいる「みんなのために頑張りましょう」の「みんな」とは誰のことなんでしょうか?
磯村:この作品を読んだ読者が、そのことを考えてほしい。それが原作者である山本さんのメッセージだと思っています。だから観客のみなさんに委ねたいところです(笑)。それが映画を楽しむ醍醐味だと思っているからです。「みんな」って何の「みんな」だろうと、ぜひ意見を交わしていただけたら嬉しいです。