妊娠や出産は、人生にとって一大事であり喜びと同時に不安や心配がつきまとうもの。
万が一のことを考えて周囲に話すことに慎重になる女性は多いですが、笠木優子さん(仮名・38歳)にも安易に打ち明けられない事情がありました。
「それまで何度か妊娠初期での流産を経験していたので、今回ももしダメだったらと考えるとつらく、安定期に入るまでは誰にも報告しないでおこうと決めていたんです」
そう振り返る笠木さんですが、そんな思惑をぶち壊すような人物が現れます。
おしゃべりで有名な知人と産科でばったり
「妊娠3ヶ月に入っていて、産科の検診に出かけた日でした。大きな総合病院で知り合いに会わないかいつもヒヤヒヤしていましたが、それまでは誰かとばったりなんてなかったので、油断していたのかもしれません」
検診は無事に終わり、「順調ですよ」と先生から言われた笠木さんは、上機嫌で産科の待合室を出ました。
そのとき、エレベーターの近くでこちらをじっと見る女性に気が付きます。
「あっと思ったけどすでに遅く、私と目が合ったその人は笑顔でこちらに歩いてきました。知り合いのなかでもおしゃべりで有名な女性で、全身さっと冷水を浴びた気分でしたね……」
「久しぶり!」と明るく声をかけてくれる女性でしたが、曖昧に笑う笠木さんに向かって
「まさか、妊娠?」
といかにも興味津々といった感じで尋ねてきました。
私の妊娠をほかの人に言いふらされたくない
産科から出てきた瞬間を見られたら「違う」とは言えず、
「うーん、まだはっきりとはわからないけど」
と言葉を濁してやり過ごそうとする笠木さんに、女性は「予定日はいつ?」「ここで産むの?」など無遠慮に質問を続けたそうです。
病院女性は身内の付き添いで同じフロアにある整形外科に来ていたそうで、のらりくらりと質問をかわしながら“私の妊娠をほかの人に言いふらされたくない”と思った笠木さんは、
「どうなるかわからないし、ここで私を見たことは誰にも言わないでほしいの」
と女性の目をまっすぐに見つめて言います。
女性はすぐに「わかったわ」と返してくれたものの不安は消えず、それでも女性を信じることしかできませんでした。