猫とともに暮らす人が一度は悩むであろう問題の一つに避妊・去勢手術を受けるべきかどうか、という事があげられます。避妊とは雌猫の卵巣または卵巣と子宮を、去勢とは雄猫の精巣を体内から取り去ってしまうことで、中性化手術とも言われています。
自然の状態で生活する猫であれば、発情がくれば雌は雄を求め、雄は雌を求め、交尾し妊娠を経て新たな生命を生み出していきます。発情が来たときには雌も雄も相手を求めて大きな声で鳴き、時にマーキングのためのスプレー行動などがみられます。この行動は猫にとっては自然なことですが、猫と暮らす人間にとっては困ったものともなりかねません。また、発情期に交配できないということは猫にとってはストレスとなってしまうことがあります。このため、一般的に繁殖を目的としない猫の場合には避妊・去勢手術を受けることが勧められています。しかし、愛猫に麻酔をかけ、その健康な体にメスを入れることにためらう飼い主の方も多く見られます。
どちらを選択すべきかどうか悩んだときには、避妊・去勢手術のメリットとともにデメリットも知り、その上で家族全員が話し合って決める必要があります。今回はそのメリットとデメリットについて載せてみました。
1. 子孫を残さなくなる
これは、不用意に捨てられる、また安楽死される子猫を無くすための最良の方法です。 人間によって捨てられたため、数多くの子猫が寿命を全うすることなく亡くなっています。身近な例をあげると、捨てられた子猫が野外でカラスにお腹を食い破られてしまい、発見され動物病院に連れられてきた時には処置の施しようがなく、安楽死せざるを得なくなってしまったことがありました。また、幼くして捨てられた子猫が親の庇護もなくミルクも飲めないまま、寒空に放置され、動物病院へ連れてこられた時には衰弱が激しく、懸命の治療に関わらず死んでしまったこともありました。里親の見つからない、捨てられた子猫たちの安楽死をしなければならないこともありました。 この世に生を受けた子猫だけでなく、母猫のお腹にいる段階で避妊手術により命を失っている子猫も多くいます…。
子猫を捨てる人間がいなければ、このようなことは起こらなかったでしょう。妊娠する前に、また妊娠させる前に猫の避妊・去勢を行っていれば捨てられてしまう、安楽死されてしまう子猫は生まれなかったでしょう。責任をもって生まれてくる子猫の面倒を全てみることができないのであれば、妊娠してしまう可能性のある雌猫、また妊娠させてしまう可能性のある雄猫を自由に闊歩させ、これ以上の不幸な子猫を増やさないようにすべきでしょう。このような猫たちの避妊・去勢を行うことは飼い主の責任であり、義務でもあるのではないでしょうか?
2.発情時のストレスによる身体の不調がなくなる
人間でも生理前や生理中に食欲が低下したり、体がだるくなったりという症状が出ることがあります。猫でも同じように発情前や発情中に食欲や元気がなくなり、時に体重が減少してしまうという個体がいます。これらの猫は避妊を行うことで、一定の元気や食欲を維持することができるようになります。
3.発情時のさかり声がなくなる
猫は発情時に相手を求めて、雄も雌もとても大きな声で鳴き、時に赤ちゃんの夜鳴きの声と間違うほどです。郊外の一戸建てであれば、ご近所の迷惑とはなりにくいかもしれませんが、マンション暮らしなどの場合には肩身が狭い思いをしてしまうことにもなりかねません。特にこっそりと猫を飼っている場合にはこれでばれてしまう事もありますので、切実なものとなりますね。
避妊や去勢手術を行うことにより、このようなさかり声は出さなくなります。
4.スプレー行動がなくなる可能性が高い
猫のスプレーとは少量の特別な尿を自分の縄張りである場所に吹き付ける行動で、『ここが自分のテリトリーだ!』ということを自分自身と周囲の猫に示す役割があります。未去勢の雄猫に多くみられる習性ですが、少数の雌猫にもみられます。スプレー尿は匂いが大変きついだけでなく、トイレ以外の様々な場所に吹き付けられるため、お掃除が大変で、まさに飼い主泣かせのものです。
スプレー行動を覚える前に去勢や避妊を行うと、90%以上の猫がスプレーをしないままと言われています。また、スプレー行動を覚えた後でも去勢、避妊を行うと約80~90%の猫でスプレーの回数が減少ないし、予防することができます。ただし、残念ながら一部の猫では去勢や避妊手術によってもスプレー行動が残り続けることがあります。
5.生殖器の病気にかからなくなる
猫は子宮の腫瘍や子宮蓄膿症、子宮内膜炎、前立腺炎といった病気はきわめて稀です。卵巣腫瘍や子宮腫瘍、前立腺腫瘍、精巣腫瘍の発生率も猫は犬にくらべ少ないのですが、このような腫瘍の場合、猫ではそのほとんどが悪性となる可能性が高く、また、発症年齢は中年齢から高年齢にかけてがほとんどであるため、発症してからの手術と言うのは麻酔の危険性が若い頃に比べて高くなってしまいがちです。
もし、あらかじめ避妊・去勢手術を行っておけば、卵巣や子宮、精巣が除去されているため、これら生殖器の病気にはなりません。
6.乳腺腫瘍の発生率が低下する
猫の乳腺腫瘍の発生率は犬の半分以下と言われていますが、もし、腫瘍ができてしまった場合、その70~90%が悪性です。避妊していない猫では避妊している猫に比較し乳腺腫瘍の危険性が7倍であると言われています。このため、猫を妊娠させないと決めているのであれば避妊をしておいた方が安心かもしれません。
7.外出時の喧嘩による傷が減少
猫同士の喧嘩は一般的に交尾相手を求めている雄同士でみられます。猫同士の喧嘩の傷は治りにくく、化膿しやすいだけでなく、膿瘍になりやすく、また一旦治ったように見えてもしっかり治療を行っておかないと再発しやすいものです。
猫同士の喧嘩は早期の去勢(生後12ヶ月齢以前)によって、その88%を減少させることができるという報告がありますので、去勢をしておくと怪我をしなくなる可能性が高くなります。
8.外出時に交配や喧嘩による傷からの感染の心配がなくなる
発情期が来ると、雌も雄も外へ出たがるようになり、行動範囲も拡大します。このため、事故にあってしまう可能性が高くなります。また、猫同士の喧嘩や交配によって様々な病原体が感染してしまう危険性が増加します。これらの病原体の中には、現在治療法がないものもあります。
早期の去勢、避妊によって、テリトリー範囲が狭くなり、相手を求めての徘徊行動が減少します。また交配自体も行うことがなくなります。つまり外出が少なくなり、事故に遭遇する可能性が減少し、喧嘩や交配によって病原体に感染する心配が少なくなります。