同時通訳をしていて誤訳をしてしまうことがあります。本来であれば、そもそも誤った訳を言わなければ良いのですが、人間は機械ではないがゆえに間違ってしまうことも。そのような際にはすぐに謝って訂正を入れることになります。

ただ、同時通訳の場合、時間に限りがあります。「大変申し訳ございませんでした」「ごめんなさい」「間違いました」など、日本語にはお詫び表現がたくさん。でもこれらを全部言おうものなら、ヘッドホンから聞こえてくる英語がどんどん先へ進んでしまいます。詫びているうちに英語を聞き逃し、日本語が追い付かなくなる。しかも、ただでさえ「誤訳をしてしまった」という焦りもあるわけですので、ますますパニックに陥りかねません。

そこで便利なのが「失礼」という日本語音4文字のことば。しかもこの単語は口の上下左右動作が少なく、ほぼ一拍で「失礼」と言い切れます。時間節約単語です。誤訳をした際に多くの通訳者がこのことばで訂正をしており、私もその一人です。

もちろん、一拍で「失礼!」と言い切ると、若干キツく聞こえはします。けれども時間的猶予がない以上、これしか手段がありません。同時通訳の声色は穏やか、でも誤訳時の謝罪はピシッと聞こえるこの単語を用いるというわけです。

ところでテレビやラジオの生放送での訂正文句も、時代と共に変わってきていると私は感じます。私が子どものころは、訂正時のアナウンスはかなり長文だったと記憶しています。たとえば、「先ほど○○△△とお伝えいたしましたが、正しくは◇▽×〇でした。お詫びして訂正いたします」という具合。「申し訳ございませんでした」というフレーズも聞いたような気がします。

しかし、最近のメディアでは「失礼いたしました」とシンプルになっている印象です。