早川さんは老人。僕は赤ん坊。似たテーマを別角度から

<カンヌ受賞監督の特別対談>「生きるに値しない命などあるのか」を問う
(画像=『女子SPA!』より引用)

『ベイビー・ブローカー』 監督・脚本・編集/是枝裕和 出演/ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン 6月24 日(金)全国ロードショー

――おふたりとも家族のかたちや命の価値を取り上げた作品で、偶然にも似たテーマとなっています。

是枝:うん、そうかもしれない。図らずもとても似たテーマを別の角度から扱っている。早川さんは老人。僕は赤ん坊。命の価値と作品を通し、登場人物たちが向き合い、問いただす。この共通点は面白いですね。

早川:私はいろんなことに憤りを感じていることが映画を作るモチベーションになっています。『ベイビー・ブローカー』を観て、是枝さんの“怒り”に、つうじるものを感じたんですよね。赤ちゃんがほしい最初の夫婦が容姿に文句をつけるシーンがあるのですが、赤ちゃんですら価値を選別されているのをはっと気づかされた。私は高齢者の命の選別について描きましたが赤ちゃんでも子どもでもありうることなんだ、と。すごく象徴的なシーンで胸が痛むと同時に憤りを感じました。

是枝:何かに違和感を覚え、怒るという感情はモノを作る上で大きなモチベーションになる。僕も常に意識していることです。そういってもらえることは本当に嬉しいです。

日本映画のためにも、現場から変えていかなればなりません

――是枝監督は有志メンバーで日本映画製作者連盟(映連)に労働環境の改善、ハラスメント防止の対策を求め提言書を提出されました。

是枝:映連からの回答は具体性に欠け、何の改善策にもなっていません。ただ、映連だけが悪いのではなく、僕ら監督たちも含め業界全体で考えていかなければならない。ハラスメントに遭ったり、長時間働かされたりし、若い人たちが定着しないのが一番の問題です。

早川:最近ようやく日本映画界の問題が指摘され始めたことは、改善への第一歩だと思いますが道のりは険しい。その点、韓国の改革のスピード感はすごいなと思います。

是枝:韓国は良くも悪くも日本以上に改革のスピードが速いんですよね。ポン・ジュノ世代が中心に行なった改革に取り残された人たちは、本人たちの問題もあるかもしれないが完全に第一線を退いているという状況です。改革が先行する韓国から見習う点や導入できたらいいなと思う制度はたくさんあります。働く環境は日本より整っていて1日12時間、週52時間までと決まっています。そのため『ベイビー・ブローカー』は週に2、3日休みになることもありました。

日本の撮影と比べると1.5~2倍の撮影期間になる。またフランスでの撮影時もそうでしたが韓国もシェフと契約していて、撮影中に現場で温かいご飯が食べられるのがとても良かった。しっかり食べて、ちゃんと寝ていれば誰も現場でイライラしないし、怒鳴らない。昨年のカンヌでは濱口竜介さんが脚本賞などを獲り、今年は早川さんと続いた。日本映画にとっていい流れを維持するためにも、現場から変えていかなればなりません。

【是枝裕和】 『幻の光』(‘95年)で監督デビュー。『万引き家族』(‘18年)で第71回カンヌ国際映画祭最高賞となるパルム・ドールを受賞

【早川千絵】 ‘14年、短編『ナイアガラ』がカンヌ映画祭シネフォンダシオン部門(学生部門)に入選。本作が初長編映画となる

<取材・文/よしひろまさみち 取材/村田孔明> よしひろまさみち

提供・女子SPA!



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