3年ぶりに通常開催された第75回カンヌ国際映画祭において、2人の日本人監督の作品が注目された。斬新な若手作品を集めた「ある視点部門」では『PLAN 75』の早川千絵監督が新人監督賞の特別表彰を受ける。そして是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』は主演ソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞。カンヌを沸かせた2人による特別対談が実現した。

<カンヌ受賞監督の特別対談>「生きるに値しない命などあるのか」を問う
(画像=『女子SPA!』より引用)

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カンヌに是枝監督とご一緒できたのがうれしい

――是枝監督にとって初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』がコンペ入り。早川監督は初長編『PLAN 75』の出品となりました。

早川:『PLAN75』を出品できたことはもちろん光栄ですが、同じ年のカンヌに是枝監督とご一緒できたのがすごくうれしいです。

是枝:僕も早川さんがカンヌ入りしたことは、本当に誇らしく思っています。僕が初めてカンヌを訪れたのは21年前の『DISTANCE』のときです。あのときは本当に何が何やらまったくわからなかった。今から振り返ると、そんなに評判がよくなかったので、取材も入らない。みんな暇だったから、砂浜で相撲とったりして遊んでいた記憶しか残ってないですね(笑)。今は作品が売れたかどうかは気にするようになりましたけど、当時はカンヌに来ただけで満足していた。とても楽しかったという思い出しか残ってないんです。

早川:私は8年前にシネフォンダシオン部門(学生部門)に短編が入選し、初めてカンヌを訪れました。そのときの驚きがとても大きかったので、今回はそれほどでも(笑)。むしろ大勢の素晴らしいスタッフに支えられ、作品を出品することができてうれしいという気持ちが強いです。

『PLAN75』を選んだのは「人柄が誠実そう」

――『PLAN75』は75歳から自らの生死を選択できる制度ができた近未来の日本が舞台です。これは是枝監督が総合監修を務めた『十年 Ten Years Japan』(‘18年)で早川監督が手がけた同名短編をもとに長編化しています。どういう経緯で是枝監督は早川監督の作品を選ばれたのでしょうか。

是枝:ええと……なんでだっただろうか(笑)。

早川:わたしはすごく覚えていますよ(笑)。以前、取材で『十年 Ten Years Japan』の監督5人と是枝さんが対談する企画があり、是枝さんが一人ひとりになぜ選んだのかを話していたのが印象に残っています。

是枝:なぜ『PLAN75』を選んだと僕は言っていましたか?

早川:「人柄が誠実そう」(笑)。切り口やコンセプトがおもしろいと言っていただけるのかなっと期待していたら……え、人柄って、ちょっとずっこけそうになりました。

是枝:もちろん『PLAN 75』の企画は素晴らしい。ただ一緒に何かを作るには人柄って本当に大事なんですよね。

早川:本当にそうでした。是枝さんの言葉の意味はあとからわかりました。いまではお守りのようにしています。