「日本人女性はとても声が高い」と話すのは音楽ジャーナリスト・声の研究家である山崎広子さんです。インタビュー前編では、男女間の格差が大きい国の女性は声が高いことや、自分の本物の声「オーセンティック・ヴォイス」の見つけ方について話してもらいました。
写真はイメージです。(以下同じ)
【前回記事】⇒日本人女性の声は世界一高い。心地いい“本物の声”の見つけ方
後編では、2000年頃から特に女性の声が高くなった要因や、ついよそ行きの高い声を出してしまう女性たちに山崎さんが伝えたいことを聞きました。
(※山崎広子さんの崎は立つ崎(たつさき)が正式表記です)
2000年頃から特に日本女性の声が高くなった
――山崎さんは2000年頃から特に女性の声が高くなったと著書に書かれています。
山崎広子さん(以下、山崎)「1970年代くらいまでの声も高かったのですが、バブルの時代には一時的に少し低くなったんです。しかし街中の声を調査したところ、2000年頃からまた高くなりました。社会現象としてアニメ文化がサブカルチャーからメインストリームになってきて声優さんの人気が高くなり、アニメ以外の分野でも少女のような高い声が起用される機会が増えました。
そのような声が『好きな声』として常に上位にランクするようになったのもこの頃です。以前ならいわゆるアニメ声を一般の大人の女性が出していたら奇異に感じられたものですが、そういった声が浸透し、テレビなどのメディアでもいたるところで聞かれるようになったため、特に若い女性たちが知らぬうちに感化されて高い声で話すようになっていったと推測しています」
アニメでの女性像や経済の低迷も影響している
――女性の高い声は何を意味するのですか?
山崎「人間も動物も、子どもの声は高いですよね。それは体が小さくて声帯も声道も短いからです。つまり高い声というものは、生体がまだ幼く未成熟であることを示しています。一部のアニメでは女性キャラクターの声は未成熟で弱さと幼さを表していながら、体だけは性的に成熟した姿で描かれているものが見られますね。もちろん全部のアニメ作品がそうではないですが、そういった女性像が求められているとしたら、私たちは意識的に女性の表象に気をつけるべきだと思います」
――山崎さんの著書には経済の低迷も女性の声が高くなっている一因だと記されています。
山崎「人々の声は社会情勢を反映します。希望も覇気もない社会にいれば声は弱く暗くなりますし、同調圧の強い社会では個性を抑圧した作り声が蔓延します。いつも人の目を気にして緊張していなくてはならない社会や、経済不安を抱えた社会であれば、ストレスホルモンの作用によって喉頭は硬くこわばり、声道を短く詰めた声になります。経済格差が広がり、貧困に陥る女性が増えている現状は、アニメ声とはまた別の要素が加わった高く硬い声に表れているように思います。新型コロナやウクライナ情勢、経済の低迷などによって社会に不安が満ちてくると、報道番組などに流れる声が高くなり、それが聞く人にフィードバックして社会全体の声が硬く高くなるということも起こります」