(本記事は、小澤竹俊氏の著書『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』、アスコム、2018年8月27日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』シリーズ】
(1)3000人を看取った医者が見た「死ぬまで幸せに生きる」ために必要なこと
(2)死に直面したときこそ「本当の幸せ」に踏み出すチャンスである

この世を去る瞬間であっても、人は新しい一歩を踏み出せる

人は何歳からでも、人生をやり直すことができる。

これは私の持論です。

若いとき、健康なとき、仕事ばかりに熱中して家族を大事にしなかった。

自分の欲望を満たすため、周りの人をさんざん傷つけた。

会社のため、利益を上げることが何よりも大事だと思っていた。

あるいは、今までいいことなど一つもなく、自分の人生に価値などないと思っていた。

そのような人生を歩んできた人が、病気や怪我をしたり、大きな苦しみや挫折を味わったりしたとき、初めて人の優しさ、ありがたさを知り、自分がやるべきことは「ただお金を稼ぐこと」「欲望を満たすこと」ではないのだと気づいたり、「自分は多くの人に支えられて生きていたのだ」と気づいたりすることがあります。

そこで「これからは、もっと家族を大事にしたい」「人の役に立つことをしたい」「自分の人生を、もっと価値あるものにしたい」といった新たな希望や目標を持つことができれば、何歳であろうと、どんなタイミングであろうと、人生は大きく変わり、本当の意味での幸せを感じられるようになります。

では、そのような「気づき」を得たのが、死が間近に迫っているときだったらどうでしょう。

以前、銀行の支店長を務めていたという、50代の男性の患者さんに関わらせていただいたことがあります。

彼は高校を卒業してすぐに入行し、「お金を返せそうにない人や企業には、絶対に融資をしない」という厳しい仕事ぶりでめきめきと成績を上げ、大学卒の同期よりも早く支店長になり、収入も増えたそうです。

ところが、50歳を過ぎたある日、検診で肺がんが見つかりました。

治療を開始したものの、がんの進行があまりにも早く、治る見込みがなかったため、彼は緩和ケアを受けることを決意しました。

最初のうち、彼はひどく苦しんでいました。

元気だったころの彼は、家族のことも顧みず仕事に打ち込み、「仕事ができない人間は、銀行にとっていらない存在だ」と考えていました。

そんな自分が、仕事ができないどころか、人の手を借りなければ日常生活もままならなくなってしまったことを嘆き、「一生懸命働いてきた自分が、どうしてこんな目に遭あわなければならないのか」と怒り、献身的に看病をするご家族にも在宅チームのスタッフにも、しばしば声を荒げていました。

しかし、そんな苦しみの中で、あらためて自分の人生を見つめ直し、彼は気づいたのです。

「どんなに高い地位や多くのお金を手に入れても、あの世には持っていけないし、死んでしまったら、まったく意味がない」

「人生において本当に大切なのは、家族からの愛情や同僚との友情、仕事相手との信頼など、目に見えないものなのだ」

「自分は今まで、家族や友人に支えられていたのだ」ということに。

それから彼は少しずつ、周囲の人への感謝の言葉を口にするようになりました。

また、お子さんには「どんなに収入が良くても、他人を不幸にする仕事には就かないでほしい」と望むようになり、銀行の仲間には、亡くなる間際まで「人からも社会からも信用される銀行をつくってほしい」というメッセージを送り続けました。

「私は嬉しいんです。大切なことに気づくことができ、それを家族や同僚に伝えることができるからです。今はこんな体ですが、私はとても幸せです」という彼の言葉を、私は今でもよく覚えています。

人は、この世を去るギリギリの瞬間まで、人生を変え、本当の幸せを感じることができる。

私は、そう思っています。

いやむしろ、死を間近に控えたときこそが、「目に見える幸せ」「わかりやすい幸せ」に惑わされず、「自分が本当は何をするべきなのか」に気づく、大きなチャンスであるといえるかもしれません。

(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

小澤 竹俊(おざわ・たけとし)
1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に勤務、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3000人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書『今日が人生最後の日だと思っていきなさい』は25万部のベストセラー。

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