2017年5月の国会で民法が大幅に改正され、賃貸マンションなどの一部が災害などで使えなくなった場合、家賃を減額する規定が見直されることになった。従来は「家賃の減額を請求できる」だったのが、部分の割合に応じて「減額される」ことになる。借主が請求するまでもなく当然に減額されるということになれば、今後の賃貸借契約にも影響を与えることも考えられる。

今までの家賃減額のルールはどうだったか?

現在の民法では、借主の過失によらないで賃貸物件の一部が滅失した場合には、借主はその部分の割合に応じて、家賃の減額を請求することができる(民法第611条第1項)とされている。

この内容だけ聞けば当然の規定である。例えば、3つの部屋を借りている人が、自然災害など自分の過失でない理由で1部屋使えなくなった場合、家賃を減額してもらえることは、誰が考えても納得できることである。

むしろ、自分の過失ではないのに賃貸物件の一部が使用できない状態で家賃を全額支払うことに、多くの人は抵抗があるに違いない。借主保護の立場から言ってこの制度は何ら問題はない。

しかしここで問題になるのは「家賃の減額を請求できる」という言葉である。つまり、借主が大家に申し出をしない限り、家賃の全額を支払うことになるのである。

改正後の家賃減額のルール

以上のような弊害を防ぐために、改正民法では、借主の責めに帰すことができない(責任ではない)理由によって賃貸物件の一部が使用できなかった場合には、その部分の割合に応じて「減額される」という文言に変わった。

つまり、借主が請求するまでもなく当然に減額されるということになったのである。借主の責任でなく、賃貸物件の一部が使用できなくなれば、大家にはその部分の修繕義務が生じると同時に、借主の申し出がなくても、大家には減額する義務が発生するのである。

変更後のポイント(1)  借主から大家への通知

今回の改正の第一のポイントは借主から大家への通知である。

現在の民法では、「請求することができる」となっているので、貸主から大家への通知は任意、つまり貸主の意思に任せられてきた。従って、貸主の申し出があって初めて、賃料の減額が認められるということになっていた。

しかし、改正後は、その通知が必須ではなくなり、賃貸物件の一部が使えなくなったという事実だけで、賃料が減額されることになる。この点では、貸主にとっては誠にありがたい仕組みになる。

しかし、そのような制度に変わっても、賃貸物件の一部が使えないということを大家が直ぐに把握することは難しい。結局、借主から大家へ知らせることによって、賃料の減額を請求することになる。

ただ、賃貸物件の一部が使えなくなっても、借主が通知を怠り、数ヵ月も放置していた場合、トラブルの元になる可能性が出てくる。つまり、通知が遅れたため使用できなくなった時期を特定しづらいため、賃料の減額時期を定めることが難しくなるためだ。

従って、借主が大家に対して通知する時期が大きなポイントとなる。今回の民法改正は、借主にメリットはあるが、賃貸物件が使用できなくなれば直ぐに大家に通知することが必要となり、かえって借主の責任が増す結果になる。

変更後のポイント(2)  借主の責めに帰すことができないという解釈

2つ目のポイントは、借りている物件が使えなくなった理由、つまり借主の責めに帰すことができないという解釈である。

この理由を直訳すれば、借主の責任ではないという意味になるが、物件が使えなくなった案件によっては、全く借主の責任がないとは言えないことがあるかもしれない。もちろん、天災等の不可抗力が原因であれば、責任がどちらにあるかといった問題が生じる可能性は低いかもしれない。

しかし、例えば比較的軽微な地震によって物件の一部が傷み、その状態を借主が長い間放置した結果、使用できなくなった場合、借主に責任があるか否かの判定が難しくなる。

もちろん、現行の民法でも借主の責任に関して、トラブルに発生するケースがあった。しかし、改正民法では、物件が使用不可能になった時点から、賃料が減額されることになるため、今まで以上に、借主の責任以外で使用できなくなったのかが、大きなポイントとなるのである。

変更後のポイント(3)  賃貸物件の修理の徹底

3つ目のポイントは、賃貸物件の修理の徹底である。

元来、賃貸物件の管理は、所有者である大家にあった。これは、民法が改正されても変わりない。しかし、改正民法では、物件の一部が使用できなくなった時点で、大家に賃料を減額する義務が発生することになる。

従って、修理が遅れれば遅れるほど、賃料の減額時期が延びることになる。また、大規模な修理であれば、当然工期が延びて、その間も賃料が減額されることになる。

今回の改正によって、賃貸物件の修理の徹底と大家の負担は増大することになることが予想される。

民法改正により、借主の責任でない原因で賃貸物件の故障が起こった場合、当然賃料が減額されるようになる。ただ、借主、大家ともに注意すべきポイントが新たに発生する。

文・井上通夫(行政書士)/ZUU online

【こちらの記事もおすすめ】
お金が貯まる5つのコツ。「貯蓄1,000万円」も夢じゃない
「いつもお金がない人」に共通する5つの行動と口ぐせとは?
お金持ちの「貯まる特徴」3つ 最も大切なのは?
お金を増やしたい人へ。専門家がおすすめするベスト3の方法とは?
お金を貯めたいなら財布選びで意識したい「風水」