美顔の鎧を解いた心地よさ

 これまで新作映画が公開される度に、岩ちゃんの美しさばかり褒めてきた筆者だけれど、今回は正直、面食らってしまった。この根暗キャラが、衝撃的だったというか、単純にショックだったからだ。

 何せ、金山は亡霊のような根暗感にプラスして、顔に大きな青あざがある役柄。『ウェディング・ハイ』(2022年)で、『卒業』(1967年)のダスティン・ホフマンよろしく、花嫁を奪還しようとするコミカルな二枚目キャラを演じても、やっぱりどこかクールで、魅力的で、可愛らしかったのに、あの美しき岩ちゃんの顔に違和感を感じる役柄となると、話は変わってくる。

 あざのひとつやふたつあっても岩ちゃんの美しき容姿端麗さは、実のところ隠しきれない。それでも岩田としては、あえて美しい顔を美しいままにみせず、美顔の鎧を解くことで、見た目にとらわれず、純粋に演技する自分が浮き上がってくるような心地よさを覚えたのではと、推察する。

水を得た魚のように演技を楽しむ姿

こんな岩ちゃん見たことない…岩田剛典が『死刑にいたる病』でみせた“根暗キャラ”が衝撃
(画像=『女子SPA!』より引用)

 つまり、金山の長髪に隠されているのは、顔のあざだけではなく、俳優としてのあくなき挑戦と探求だ。

 榛村との過去に隠されたトラウマに苦しむ金山の葛藤を体現する迫真の演技には、まるで怪談映画のような緊張感がある。金山は、雅也をうまく利用することで拘置所の中からでさえ責苦を味わわせようとする榛村の存在に怯えながら、苦悶と葛藤の表情を浮かべる。

 雅也が、榛村の弁護を担当する弁護士事務所でアルバイトしながら、事件の捜査をする中、道路の脇に車を止めて、車内から雅也をじろりと見つめる金山。それは恨みなのか、悲しみなのか、複雑な感情が入り交じった表情に見える。ベールに覆われた金山の正体、そしてその目的とは。

 榛村がえん罪だと主張する被害者の殺害現場を雅也が二度目に訪ねたとき、金山が再び姿を見せる。どんよりした青白い顔。犯人は現場に戻る。そう咄嗟に確信した雅也はその場から逃げ、深い森の中で逃走劇が繰り広げられる。あとを追う金山の必死さが、演技を超えた生々しさを伝えてくる。

 ドラマの核心に触れるので、ここから先は劇場で確認してもらいたいのだけれど、とにかく岩田が、水を得た魚のように演技を楽しむ姿が圧巻の迫力と緊張感を全編に漲らせ、存在感を発揮していた。