悪の魅力が光る岩ちゃん……。
©2022映画「死刑にいたる病」製作委員会
公開中の映画『死刑にいたる病』で、岩田剛典が、岡田健史演じる主人公の元に現れる謎の長髪男を不気味に怪演している。「岩ちゃんスマイル」なんて一切期待できないこのシリアスな役柄を通じて、彼は何を伝えるのか。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、岩田から発する悪の魅力の虜となりながら、その核心に迫る。
(※編集部注:以下、物語上の重要な場面の描写を含みます)
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毎回が新境地の岩田剛典
『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』DVD(松竹)
岩ちゃんに新境地はない。と言うとすこし語弊があるかもしれないけれど、筆者は常々そう思ってきた。どんな役を演じても必ず新しい表情になる。毎回が新境地なのが、岩田剛典という俳優だ。
確かに、自他ともに演技のターニングポイントと認める『去年の冬、きみと別れ』(2018年、以下、『冬きみ』)での怪演ぶりは、初主演映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)に顕著な「岩ちゃんスマイル」をきらきら輝かせていた頃の岩田にとっては、新境地に違いなかった。
でも、クールな警察官僚役を演じた『AI崩壊』(2020年)にしろ、かなり破廉恥で大胆なヌードを披露したNetfulixオリジナルドラマ『金魚妻』(2022年)にしろ、『冬きみ』以来の岩田の挑戦について、いちいち新境地と騒ぎ立てる必要はないと思う。新しい役柄に向き合い、演じることの喜びを得る新しい顔の岩ちゃんがいる。ただ、それだけのことじゃないだろうか。
それで今回もやっぱり新境地と言われている『死刑にいたる病』での金山役の演技は、どうだろうか。新作公開ごとに毎回話題を呼んでしまうのだから仕方ないが、本作もまた「新境地」だけではとても言い尽くせない気がする。
金山の不気味な視線
24件もの殺人事件で死刑判決を受けた連続殺人犯・榛村大和(阿部サダヲ)。と、榛村から「最後の事件だけはえん罪であることを立証してほしい」と依頼された大学生の筧井雅也(岡田健史)との不思議な交流がミステリアスに描かれる本作。榛村から手紙をもらって拘置所に訪れた雅也に、待合室で不意にぶつかってきた、いかにも怪しげな長髪の男・金山一輝を演じるのが、何を隠そう、岩田剛典だ。
面会の帰り、雅也は、押しボタン式信号機の横断歩道で、金山に話しかけられる。「面会ですか?」と、金山はひとり呟くように訊く。「優柔不断」、「僕、迷ってて、自分で決められないんです」など、相談なのか呟きなのか、どちにも取れるようなか細い口調の金山。発声そのものには、はっきりとした力強さが感じられるのだけれど、でも、こんな根暗キャラの岩ちゃんを誰も見たことがない。
やっぱり、この役柄は、岩ちゃんにとっての新境地なのか……。青信号をやり過ごし、雅也がひとりで横断歩道を渡っていくのをその場に佇んだまま見つめ続ける金山の不気味な視線に、何を読み取るべきだろうか?