「産後、夫の空気の読めなさに何度も離婚を考えた」――赤ちゃんを産んだばかりの妻がこんな風に夫へ失望し、夫婦関係が悪化する例は非常に多いといいます。

「産後の夫婦関係がその先何十年を左右します。そしてそのカギとなるのが夫なのです」と語るのは、産婦人科医で『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎刊)の著者・東野純彦さん。

産後の夫婦の危機は、何が原因でどのように訪れるのでしょうか。前回に引き続き、男性や出産前後の夫婦が「産後クライシス」について理解を深めるための本書から、夫婦円満のヒントを読み解きます(以下、同書より抜粋・再構成)。

夫婦の危機「産後クライシス」とは

 今、「産後クライシス」が深刻化しています。産後クライシスとは、妊娠や分娩によって起こる身体やホルモンバランスの変化に伴い、産後の母親に起こる精神不安や産後うつが原因で、夫婦仲や社会関係に影響を及ぼすことをいいます。  国立成育医療研究センターが行った「妊娠中・産後の死亡の現状」に関する調査によると、2015~2016年の2年間に死亡した、妊娠中から産後1年未満の女性は357人。そのうち102人の死因が自殺でした。死亡原因の1位で、全体の実に約3割を占めたのです。

 日本では、産後うつになる女性は約30%にも上るといわれています。高度経済成長期に入って以降、妊産婦を取り巻く環境が大きく変化したことが要因の一つに挙げられます。これは日本のみならず、西欧においても同様の傾向が見られます。

着替え中の私に夫から“最低なひと言”。産後の妻が絶対言われたくない言葉
(画像=『女子SPA!』より引用)

一昔前には産婆さんが家を訪れ、出産後の女性と赤ちゃんの面倒を見ていました。ご近所付き合いが多く、身内も近くにいたため、産後のお母さんを支えるコミュニティがしっかりしていたのです。ところが、現代では産後の妻を支えるのは一緒に暮らす夫だけ。出産を経て心身ともに急激な変化が訪れる女性に対して、男性は身体に変化が生じるわけではないので、妻の様子がおかしいことには気づきながらも、どうすれば良いか分からない状態に陥ります。

 最も支えてほしい時期に助けてもらえなかった。その経験は妻の心に根深く刻まれ、その後の結婚生活に重大な影響を与えることが少なくありません。大切なのは産後の3年以内です。産後の夫婦関係がその先何十年を左右します。

産後の妻に「ずいぶん大きくなったもんなあ」と夫

●事例 冗談で言ったんだから、そこまで怒らなくても……

 中村さん夫妻は、週末に家族で出かけるのが習慣です。妻の恵さんが身支度をしている間、夫の和人さんは子どもを抱えて待っていました。  着替えをしている恵さんは、お気に入りのスカートのファスナーが上まで閉まらないと困っている様子です。  和人さんはそんな状況を笑い飛ばしてあげようと「結婚したときに比べると、ずいぶん大きくなったもんなあ」と冗談を言いました。しかし、恵さんから笑い声が返ってくるかと思ったら、「何それ?」とどこか冷たい口調です。