いつもながら、「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、現在公開中の映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022年・以下、『ダンブルドアの秘密』)に寄せたコラム「ダンブルドアのゲイ設定が公式の事実に。『ファンタビ』最新作が描いた“愛の物語”」への思わぬ批判が寄せられている。

ダンブルドアのゲイ設定を、やたらと「ポリコレ配慮」と指摘する人たちに反論
(画像=『女子SPA!』より引用)

※『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』公式サイトより

「ダンブルドアのゲイ設定は、ポリコレ(※)を配慮して盛り込んでいるのが見え見えだ」という類のものだ。

※ポリティカル・コレクトネスの略語。特定の性別やセクシャリティ、人種、職業、宗教などへの偏見や差別を防ぐため、公正かつ中立な表現を用いること

 それは、原作者J・K・ローリングの数々の問題発言を巡るものなのだけれど、ここで論点を整理する必要があると思ったのが、本稿の執筆動機だ。筆者として、『ダンブルドアの秘密』は、愛すべき作品だと思っているので、作品とダンブルドアに込められたローリングの愛情について、改めて浮き彫りにできたらと思う。

露プーチン大統領がローリングに言及

 J・K・ローリングが、再び議論を呼んでいる。

 ロシアによるウクライナ侵攻が激化する中、3月25日に放送されたテレビ番組でプーチン大統領がローリングに言及。西欧諸国でのコンサートやイベントからロシア人の音楽家や作家の作品が閉め出された「キャンセル・カルチャー」について、ローリングを引き合いに出して次のように述べたのだ。

 「J・K・ローリング氏は最近キャンセルされた。いわゆるジェンダーの自由を支持する人たちの不評を買ったためだ」

 保守的で強行姿勢を貫くプーチン大統領は、「ジェンダーの自由を支持」しない立場で、何を思ったのか、思想的部分でローリングに親近感でも抱いたのか。とんだとばっちりを受けたローリングは、自身のTwitterアカウントで1390万人のフォロワーに向けてすぐに反論コメントを出したが、世論はローリングを支持していない様子だ。現在、ローリングの著作が発禁(キャンセル)されることはないが、彼女がこれまで繰り返してきたトランスジェンダーに対する差別的な発言問題が再燃してしまった。

「ポリコレ」的にアウトな発言

ダンブルドアのゲイ設定を、やたらと「ポリコレ配慮」と指摘する人たちに反論
(画像=『女子SPA!』より引用)

『ハリー・ポッターと賢者の石』日本語版(静山社)

 貧しいシングルマザー経験のあるローリングは、「ハリー・ポッター」シリーズの夢の魔法世界に、過酷な現実を反証的に描きながらも、政治思想を色濃く反映させている。魔法族に対して人間を「マグル」と命名することに、差別と分断の社会性を読み取ることは容易だ。

 ローリング自らオリジナル脚本を執筆している「ファンタスティック・ビースト」シリーズは、現在の世界情勢の映し鏡になっている。単独執筆した第1弾『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016年)から第2弾『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)にかけて、政治性や人間の倫理が問われる描写がどんどん強くなり、説明的な台詞の数々が説教臭かった。第3弾『ダンブルドアの秘密』は、「ハリー・ポッター」シリーズの映画脚本を手掛けてきたスティーヴ・クローヴスとの共同脚本となったものの、主要な舞台となるベルリンの寒々しい風景は、第二次大戦前夜を彷彿とさせた。

 そんなローリングの政治的思想や発言には妥当性があるのだろうか。所謂「ポリコレ」的にアウトな発言や見解を多く示してきた彼女は、特に、「トランスジェンダー女性は女性ではない」とするトランスジェンダーを巡る発言で、相当なバッシングを受けた。マスコミの総攻撃だけでなく、ハリー、ハーマイオニー、ロンを演じたキャスト陣にすら擁護されず、未だに根深く批判されているのも仕方ない状況だ。