マーベル・コミックスの人気ヴィラン(悪役)を主人公とする映画『モービウス』が2022年4月1日(金)から、全国公開されている。

『モービウス』ジャレッド・レトの吸血鬼にうっとり…過去の“異常な役作り”から読み解く『女子SPA!』より引用
(画像=『女子SPA!』より引用)

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 主人公モービウスを演じるジャレッド・レトは、歳を重ねてさらに色気を漂わせる、ハリウッドきっての美形俳優。本作では、苦悩の吸血鬼キャラクターを演じる。

 そんなレトの圧倒的な美しさに魅せられながら、「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、新たなヴィラン映画である本作を読み解く。

(※編集部注:以下、物語上の重要な場面の描写を含みます)

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「陸揚船ムルナウ」の惨劇

『モービウス』ジャレッド・レトの吸血鬼にうっとり…過去の“異常な役作り”から読み解く
(画像=『女子SPA!』より引用)

 モービウスは、人工血液を開発した天才的な医師。重い血液の病を患い、倫理に反する危うい実験であることを承知で、コウモリの血清を体内に打ち込む。すると思わぬ化学変化によって、モービウスは超人的能力に目覚める。正気を失った彼は、銃口を向ける傭兵たちに次々襲いかかり、一滴も残さず血液を吸い尽くす。実験が行なわれた船は、一瞬のうちに血の惨劇の場と化す。

 恐るべきモンスターから常態に戻ったモービウスが、救助を呼ぶため、乗船する船の名「陸揚船ムルナウ」と彼が叫ぶとき、このヴィラン映画が、正真正銘の伝統的な吸血鬼作品であることに、筆者は興奮を覚えた。

吸血鬼映画の系譜

 吸血鬼映画ファンなら誰もがその名を聞いて思わずハッとしてしまう固有名詞ムルナウとは、何か。それは、世界映画史に輝く最古の吸血鬼映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年)を監督したF.W.ムルナウ監督のことだ。

 吸血鬼文学の代名詞であるブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を無断で映画化した同作の公開から、すでに100年近く経った現在まで、多くの映画人に影響を与え、『モービウス』の脚本家マット・サザマとバーク・シャープレス(『吸血鬼ドラキュラ』を原作にした『ドラキュラZERO』(2014年)の脚本も担当)は、吸血鬼映画の伝統へのリスペクトとムルナウ監督へのオマージュを捧げている。

「陸揚船ムルナウ」場面は、トランシルヴァニアからロンドンまで船でやってきたノスフェラトゥが、船内で殺戮を行なう場面の再現なのだ。闇の力がこもった船がロンドンの港に到着するモノクロームの画面は、サイレント映画なのに異様な恐怖感を掻き立てていた。一方で、『モービウス』では、港に着く前にモービウスが荒波に身を投げることで、自分がやってしまったことに対する深い後悔が表現されている。あくまで人間の心を持つモービウスは、ノスフェラトゥのようなモンスターそのものではないからだ。