日本舞踊の道へ進むことは“決定事項”だったけれど
原さんが動物を好きになった理由はほかにもあります。近くに住む母方の祖母の庭には禽舎(きんしゃ:鳥小屋)があり、池には魚が泳いでいました。犬や猫などもいて、常にたくさんの種類の動物と触れ合える環境にありました。
動物は大好きだったけど、日本舞踊の道へ進むことは決定事項。高校卒業後の進路に「日本舞踊家」と書いたぐらいです。
写真はイメージです
「子供の頃から続けてきたし、国立劇場や新橋演舞場などの有名な舞台にも立っているんです。苦労もありますが、気持ち良さも知っている。だから踊りは嫌いじゃないんですよ」
それでも、「何も考えずに踊りを続けていいのか」「このままでもいいのか」という疑問はぬぐえませんでした。
高校を卒業してから一年後、いつものように稽古帰りに寄った高島屋のペットショップで、「そんなに好きならペットショップでアルバイトをするか?」と、店長から声かけられます。
「体に雷が走ったね!『ビビビッてくる』というのはこういうことなんだって。だから『やります!』ってその場で言いました」
父とは勘当状態に。覚悟を持ってペット業界へ
店長の好意で、アルバイトの店員を募集しているほかの会社を紹介してもらい、父親に内緒で面接を受けました。結果、採用をされ、とある百貨店にあるペットショップで働けることに。それを知った父親は、当然激怒します。
ほとんど勘当のような状態になってしまい、困った原さんは花柳流の家元を訪問し、直談判をします。
「そのとき家元が言ったことで、今でも覚えているのが『一つ約束しなさい。二度とここに戻ってきちゃダメ』って」
「ファニーペッツ」のデグーたち
「つらかったら、また踊りをやればいい」という軽い気持ちでペットショップ業界に進んではいけないんだということを、そのとき改めて実感しました。
こうして人生の多くの時間を費やしてきた日本舞踊をやめ、不退転の覚悟でペット業界に進んだのでした。
動物にかかわるのが楽しかったこと、そして父親を見返したいという気持ちから、原さんは一生懸命働きました。その中で意外にも日本舞踊の経験が役立つことになります。
「踊りの世界は上下関係が厳しいから、気を使わなければいけないことがたくさんあった。だから社員やテナントの入る百貨店、お客さんに対して求められる礼儀が自然と身についていたんですね」
「気が利くし、よく働く」と褒められることがうれしく、また楽しくて仕方がありませんでした。