夫が「できなく」なって…
夫には前妻との間に3人の子がいたから、子どもをもつことには積極的でなかった。キヨノさんも母になりたいというよりは仕事で成果を上げたいと思っていた。
「私たちの場合は、本当に快楽のための性だった。彼と関係をもつたび、もっと彼を知ったような気になったし、本当に愛していると感じられたんです」
ところが結婚して5年ほどたったころ、彼が「できなく」なっていった。途中で撤退したり最後までいかなかったり。夫はもちろん、キヨノさんも思いがけず動揺したという。
「私は夫とのセックスで愛情を確認し、精神的にも安定し、自分が自分でいられたんです。でもそういう関係が薄れていくと、夫への愛情も薄れていくような気がして。
実際、私は意味もなくイライラしたり泣いたりするようになりました。夫は病院に行ったり服薬したりとがんばってくれたけど思うようにならない。もちろん夫のことを嫌いにはならなかったけど、以前のような充足感はなくなっていきました。
そしてそんな自分を嫌悪したんです。夫とはセックスだけでつながっていたわけではないはず。それなのにできない夫を物足りなく思っている自分がいる。苛立つ自分に、さらに苛立っていましたね」
30代に入って間もないころのことだから、この先、自分はずっと誰ともセックスをしないまま年をとっていくのかと絶望感を覚えたこともある。そんなとき夫が「もし離婚したいなら正直に言ってほしい」と言い出した。
そんなつもりはないときっぱり答えたが、自分の「体の渇きだけはどうしようもないと感じていた」と彼女は言う。
浮気をしたら
33歳のころ、彼女は大学時代のサークルの仲間と久しぶりに集った。それまで結婚生活と仕事の両立に腐心していて、なかなか昔の仲間と会う時間がとれなかったのだ。
そこで当時、キヨノさんを慕ってくれていた後輩のヨシキさんと再会、ふたりだけの三次会、四次会へと流れ、気づいたら後輩の部屋のベッドで朝を迎えていた。
「自分がそんなことをする人間だと思っていなかったので、びっくりしました。確かにヨシキとは昔から仲がよかったけど恋愛感情はなかったし、再会したときもなかったんです。それなのに、私は人妻なのに、こんなことになるなんてと落ち込みました。
ヨシキは『キヨノさんは今も素敵です』なんて言ってはしゃいでる。私、不倫したことになるんだよ、あなたも夫から訴えられるかもよと言ったらビビりまくっていましたけど」
朝帰りなど初めてのことだった。それでもキヨノさんはタクシーを飛ばして帰宅した。冬だったので朝5時でもまだ暗いのが救いだった。帰宅するとすぐ自室のベッドに潜り込んだ。
「10時頃目覚めてリビングに行くと、夫がコーヒーを飲んでいました。テーブルにはおいしそうなサラダがあって。『昨夜はごめんなさい。久々に楽しくて酔い潰れた』と言うと、夫は『きみが楽しかったのならいいんだよ。よかった』と」