3.腎不全で余命1週間の猫が、AIM投与で劇的に回復
小林:2016年には日本獣医生命科学大学の新井敏郎教授(当時。現在は名誉教授)と飼い主さんの協力を得て、末期の腎不全を患っていた猫のキジちゃんにAIMを投与する実験を行いました。この実験の経緯の詳細は「猫が30歳まで生きる日」で紹介されていますが、その結果は本当に驚くべきものでした。
末期の腎不全で余命1週間と宣告されていたキジちゃんに計5回、AIMを投与したところ、その後、なんと1年も生きることができたのです。投与の度に目に見えて元気になっていくキジちゃんの様子を目の当たりにして、「AIMが実用化されれば、これまでどうやっても治すことができなかった猫の腎臓病を治し、飼い主さんとより長い時間を過ごさせてあげることができるかもしれない」と実感することができました。
宮崎:その後、全国の獣医師の先生方のお力を借りて腎不全のステージ別にAIMの投与実験も行い、確かな手ごたえを得ることができました。さらに民間企業からの支援もあって臨床研究(治験)の目途も立ち、早ければ2022年には販売できる見込みでしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で予算的な問題が生じたため、残念ながら治験ができなくなり、計画に遅れが出てしまいました。
ただ、予算的な問題がクリアできれば、2〜3年以内には販売まで漕ぎつけられるのではないかと見ています。
4.「病気にならないための医療」を目指して
小林:販売できるようになれば、腎不全で苦しむ猫たちやその飼い主さんにとっては、何よりの朗報ですね。腎臓を病んで長く苦しみ続ける猫を見なくて済むようになりますし、寿命が延びることも期待できるのですから。
獣医師としては、将来的にAIMが「腎臓病になったときに投与する薬」ではなく、「腎臓病にならないように、子猫のうちから投与する予防薬」になれば良いなと思っています。
猫は自前のAIMが機能しないため、言ってみれば生まれた瞬間から体内にゴミが貯まり続け、腎臓の機能が悪化、やがて腎不全に陥ってしまうわけですから、子猫のうちからAIMの投与を始めれば腎臓機能の悪化を抑えることも不可能ではないはずです。AIMが起爆剤となり、「予防医療」の大切さを飼い主さんに知っていただくきっかけになってほしいと期待しています。将来的にはフードやサプリメントで、日常的に気軽にAIMを摂取できるようになれば良いですよね。
宮崎:そうですね。人の医療も同じで、今後は「病気になってから治す医療」から、「病気にならないようにする医療(予防医療)」への発想の転換がますます強く求められていくと思います。AIMは腎臓病のみならず様々な生活習慣病への有効性も期待されていますので、今後も獣医師の皆さん、民間企業の皆さん、そして飼い主さんのご意見を活かしながら、研究を進めていきたいと考えています。
小林:ぜひ、一緒に医療の未来のためにがんばっていきましょう。
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