PARIS mag編集部が気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回のお相手は、女優として活躍中の松本穂香さんです。

3月24日(木)より独占配信となるNetflix映画『桜のような僕の恋人』。約70万部のベストセラー小説を深川栄洋監督が映画化した本作で、松本穂香さんは美容師として働く、美咲役を演じています。中島健人さん演じる晴人と出会い、施術中のハプニングをきっかけに猛アプローチを受けて恋愛関係に発展。しかし、幸せな時間は束の間、美咲は人の何十倍も速く老化するという病を発症してしまいます。

難しい役を花咲くような笑顔で演じ、時間の尊さを実感したという松本さんに、一瞬一瞬を大切に過ごすためのマイルールなど、「小さなしあわせ」について話を聞きました。

女優 松本穂香

1997 年、大阪府生まれ。2015年、『風に立つライオン』で長編映画デビューし、17 年、NHK 連続テレビ小説「ひよっこ」で注目を浴びる。18 年のテレビドラマ「この世界の片隅に」では、約3,000人の応募者の中から主人公役に抜擢。その後も、『おいしい家族』(19年)、『わたしは光をにぎっている』(19年)、『酔うと化け物になる父がつらい』(20年)、『みをつくし料理帖』(20年)など、数々の映画で主演を務める。

自分が登場しないシーンは空欄の台本で臨んだ撮影

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

―本作は、松本さんにとって初めてのラブストーリーだったそうですが、どんな気持ちで演じられましたか?

松本さん(以下、敬称略):最初にお話をいただいた時は、私でいいのかなという気持ちでしたが、選んでいただいたからにはがんばろうと思いました。この映画は、前半で怒ったり笑ったり、くるくる表情が変わる美咲の若々しい姿があってこそ、後半の心を閉ざしていく姿がより悲しく映ると思ったので、美咲と晴人くんのデートシーンを通して、ふたりの思い出をどれだけ観てくれる方の心に残せるかということを意識していました。それは、中島(健人)さんも同じだったと思います。一瞬一瞬を大切にしようという気持ちで臨んだので、その後の美咲の展開をあまり意識することなく演じられたかなと思います。

―「ふたりには会えない時間を想像してほしい」という監督の意向のもと、美咲と晴人の台本はそれぞれ自分が登場しないシーンが空欄にしてあったと聞きました。初めて台本を受け取った時はどのように感じましたか?

松本:他のスタッフさんの台本はすべてが書いてあるんですが、私の台本には美咲用、中島さんの台本には晴人用と書いてありました。最初にもらった時は「えっ、空白だらけ!」と思ったんですが、演じにくさみたいなものはなかったですね。かえって、すごく狭い視野でいられるというか…自分のことだけを考えていられるという状態はリアルだなと思いました。新鮮だったし、おもしろかったですね。

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

―撮影に入る前段階では、中島さんとどんなやりとりがありましたか?

松本:準備期間で2回ほど本読みをやらせてもらったんですが、お互いの役を交換して演じました。そしたら、私は晴人の性格の方が近いし、中島さんは美咲の方が近いと言って、お互いの役にしっくりきてしまって。じゃあ私が晴人だったら、この時にはこう思うと、恋愛の姿勢についてつらつらと書き出したら、中島さんも文章にして持ってきてくれて、そんなお互いの気付きを参考にしました。ふたりが付き合っているところからではなく、出会いから始まる物語なので、作品と同様に、中島さんと私の関係を徐々に構築していくことができたのは大きかったです。

―お互いの役の方がしっくりきたというのはおもしろいですね。松本さんは、晴人のどんなところに共感できたのでしょうか?

松本:晴人くんって、ぱっと見は暗い印象でも、中身はそうではない楽しい人。あまり器用ではないけれど、恋愛では意外と大胆なところがあって、無自覚に振る舞えるところがあったりする。でも、そこに計算しているわけではないので、かわいらしいんです。逆に、美咲は器用でいろんな人と明るく話せるタイプなので、中島さんが演じた時にめちゃくちゃハマっていたんですね。同じように、私も晴人の役にハマったという感じでした(笑)。

―付き合った後もなお、晴人くんが敬語というのは新鮮でした。松本さん自身は晴人くんのような男性はどう思いますか?

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

松本:敬語はかわいらしいなと思いますけど、実際にいたら、もっと全然普通に話してってなるかもしれないですね(笑)。でも、晴人と美咲の関係性はすごく理想的というか、本当にかわいいふたりだなと思います。

―素敵なデートシーンが多く描かれていましたが、松本さんご自身の理想のデートはありますか?

松本:水族館とか行きたいです。癒やされたいですね。海の生き物が見たくて、ひとりで行くこともあるんですけど、やっぱりカップルだらけなんですよ。楽しそうなので、私もいつかその一員になりたいなという気持ちはあります(笑)。

―今回、中島さんと初めて会った時はどのような印象でしたか?

松本:初めて会ったのはビジュアル撮影の時で「最近は何をされているんですか?」とか、積極的にいろいろ話しかけてくださって。聞き上手でコミュニケーション能力が高い方だなと思いました。ちゃんと人に興味がある方なんだな、とも思いました。撮影中は「キラキラオーラを封印していた」と、いろんなところでお話しされていますが、晴人くんの時は違うキラキラを放っていたというか、私から見たら全然キラキラしていました(笑)。撮影の合間には、椅子を引いてくれたり、ドアを開けてくれたり、すごくレディファーストで。「本当に優しいね」と言ったら、「普通のことだよ」ってキョトンとされていて…もう体に染みついているみたいなんですよね。すごい方だなと思いました。

深川監督の「ささやき演出」で号泣

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

―後半の美咲が老いていくシーンでは、溌溂とした若々しい笑顔とのギャップが印象的でしたが、老いを演じる際に意識していたことはありますか?

松本:美咲は体が老いてしまっているだけで、心は若いまま。その体と心の一致しない感じというのは常に頭に置きながらも、老いた体を演じるため、実際に、高齢の女性の動きを見たりして勉強しました。あとは、杖を突きながら動いてみて「あ、その動きの方がいいね」と監督と相談しながら、繰り返して役を作り上げていったという感じでした。経験のないことだったので、正直、とても難しかったです。

―老いた動きも表情も、とてもリアリティがあって驚きました。

松本:特殊メイクは不思議な感覚でした。でも、心は若いのに体は老いていく美咲は、このメイクをした時の状態に近いんだろうなとも思いました。横になって起きたら、もう90歳くらいの姿になってしまっているので、全然心が追いつかないというか。心は晴人くんと同い年なのに、という辛さをリアルに感じられました。

―深川監督は、役者の耳元で大事なことを伝える「ささやき演出」で有名ですが、どのように感じましたか?

松本:「あなたは一匹狼です。これから自分の森に帰って、そこからどんどん閉ざしていきます…」とささやかれた独特な時もありました(笑)。美咲の体が老いていく中で孤独になっていくシーンは、すごく印象的でした。最終的にカットされたシーンなのですが、監督にささやかれながら、わんわん泣いてしまったんです。監督にささやかれると、なぜか泣いてしまって(笑)。

いろんな監督さんとお仕事させていただいてきて、このシーンではこう動いてほしいと率直に伝える監督さんもいらっしゃったのですが、深川監督はそうではなくて。こう動いてほしいというのはもちろんあると思うんですけど、じゃあそのために役者にどんな感情になってもらいたいのかを大事にしているんです。過去の記憶を引っ張り出そうとしてくるということでもなく、とてもピュアに寄り添ってくれる。

カットがかかった後に「すばらしかったです」って伝えてくださることもうれしかったですね。こういう形で導いてくれる監督は、他になかなかいないなと思いました。

常に味方でいてくれる人がいる温かさ

―でき上がった作品を初めて観た時は、どんな感想を持ちましたか?

松本:感無量でした。このときすごく素敵だったなとか、そういう気分を味わいながらの撮影だったので、ちゃんとその感情の温度が画面に映っていて良かったなと思いました。それこそ「お兄ちゃんと晴人くんはこんなに喋っていたんだ」とか、台本で空白になっている部分を初めて知ったりして。そういうシーンを愛しい気持ちで観ましたね。永山(絢斗)さんと一緒に試写を観たのですが、観終わってから「良かったね」と握手してくださいました。

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

―この映画を通して、松本さん自身が新たに得たことはありましたか?

松本:監督さんやメイクさんなどスタッフの方がすごく寄り添ってくれて、とにかく恵まれた環境で撮影できました。常に味方でいてくれる人がこんなにいることって、なかなかないと思います。「あ、こういう場所もあるんだ」って、暖かい場所もあるんだなと気付かされました。

―それは、とても素敵なことですね。これまでもさまざまな出合いがあったと思いますが、松本さんの価値観を大きく変えた経験はありましたか?

松本:中川龍太郎監督の『わたしは光をにぎっている』に主演させていただいたのは、大きかったですね。台詞がすごく少なかったのと、もともと交流がある監督が書いてくださった脚本だったので、そんなに役を作り込むことなく演じることができたんです。こういう演技でいいんだ、という発見になったというか。私の中では、すごく大切な出会いになりました。

意識的に自分を癒してあげることが幸せの秘訣

―なかなか新しい出合いも減ってしまった昨今ですが、おうち時間が増えた今、新しい趣味などはありますか?

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

松本:これまであまりゲームをやってこなかったんですが、任天堂スイッチを買ってみたり、映画を観たりしています。共演した方に「『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がおもしろかった」と聞いて、そんなにおすすめされるならちゃんと観たいなと思って、「スパイダーマン」シリーズを過去作からすべて振り返って観ました(笑)。いざ映画館に観に行ってみたら、すごくおもしろくて、やっぱり人気作品には理由があるなと思いました。

私自身、映画を観ていて心を動かされることがあるので、私が映画を通して観客の方の人生にも影響を与えられることがあるとしたら、それはすばらしいことだなとも思いました。

―今回の映画からは、人生は刹那で日々を大切に生きないといけないと気付きをいただきました。松本さんが、1日を幸せに過ごすために心がけていることはありますか?

松本:自分を癒やしてあげる、ということですね。お風呂にゆっくり浸かるとか、たくさん眠るとか、そういうシンプルなことですが、毎日必ず自分に癒しを与えることにしています。仕事が忙しいときには、次の日をしっかり迎えるために、その日のうちに少しでも自分を休ませてあげることが大事だと思っています。

このご時世なので、より体調に気を付けようと、早寝早起きを心がけていて、24時までにはベッドに入って7時間は眠ります。ちゃんと眠っているのと眠っていないのでは全然違うし、基本的なことがいちばん大事かなと。

―これから、どんな歳の積み重ね方をしていきたいですか?

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

松本:どんどん身軽になっていけたらいいな、と思います。余計なものを手放していきたいです。物理的なものではなく、自分の感情みたいなものなんですけど。お芝居も人と向き合うこともですが、いろいろ考え過ぎてしまう性分なので、もっとシンプルに考えられたら楽しいだろうなと思うことがあります。歳を重ねる中で、徐々にポジティブな生き方ができたらいいですよね。ポジティブに生きるために、自分をシンプルに削ぎ落していくのが理想です。言うのは簡単なんですがなかなか難しいです(笑)。

―この映画をどんな気持ちで観てもらいたいですか?

松本:私自身、時間の尊さというものをこの役を通してすごく感じました。本当に時間って過ぎるのが早いなって、撮影から1年経ってさらに実感していますね。一瞬一瞬を大切に生きようと思って、観てもらえたらうれしいです。

松本穂香さん「一瞬を大切に生きるために自分を癒してあげる」
(画像=『PARIS mag』より引用)

落ち着いた語り口で、ひとつひとつ丁寧に自分の言葉を紡ぎ出す松本さん。カスミソウを持って臨んでもらった撮影では、いちばん好きな花を聞くと、「やっぱり桜ですね」と、にっこり。人生は刹那であるからこそ一瞬一瞬を大切に、日々自分を癒やしてあげること。花が咲いたような笑顔から垣間見える、その強い芯を持った姿に、多くの気付きをもらいました。

松本穂香さん、素敵なお話をありがとうございました!

執筆:鈴木桃子

撮影:田野英知

●作品情報
『桜のような僕の恋人』
2022年3月24日(木)よりNetflixにて全世界独占配信
■出演:中島健人、松本穂香、永山絢斗、桜井ユキ、及川光博
■監督:深川栄洋
■原作:宇山佳佑
■脚本:吉田智子
■主題歌:Mr.Children「永遠」
■企画・制作:Netflix


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