山口紗弥加が主演する、新たな年の差ラブストーリー『シジュウカラ』(テレビ東京系)。坂井恵理の原作漫画とともに話題のドラマを、夫婦関係・不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。

【前回記事】⇒じわじわといやらしい男の嫉妬。18歳下男子の心をえぐる45歳男の“挑発”|ドラマ『シジュウカラ』

壊れていく人、再生する人、動けない人

 ドラマ『シジュウカラ』9回目。千秋(板垣李光人)が追い込まれていく。母の冬子(酒井若菜)は勤務先で美容器具を勝手に持ち帰っていたことがわかってクビに。駆けつけた千秋は謝罪し弁償を約束する。それでも冬子は悪びれもしない。あげくの果てに「あんた、かわいいね」と手を握り、「きれいな手」「これで漫画描くんだね」とつぶやく。

「もったいない、もっと稼げるのに」

 その言葉に千秋は心をえぐられる。その前にも、アルバイト先のレストランで先輩に「そのきれいな顔を生かしたらもっと稼げますよ」と言われるシーンがある。軽くいなしたのに「もったいない」と返され、包丁を研ぎながら、口の端に笑みを浮かべて「殺しますよ」と言った。

 きれいな顔であったから、過去に「買われていた」傷をもつ千秋が、今また、何のしがらみもない世界でアルバイトをしているのに傷口に塩を塗られるような目にあっている。忍(山口紗弥加)とつきあっている漫画編集者の岡野(池内博之)は、千秋に寄り添ってはくれない。

足掻けば足掻くほど、泥沼に足をとられる母親

 コーヒーを飲めなかった千秋が、缶のブラックコーヒーをやたらと飲む。このままだと千秋が壊れていくのではないか。観ているものにそんな不安さえ与える。冬子が救われなければ千秋もひとりで前に進むことはできない。だが冬子はゾンビのように千秋にまつわりつくのかもしれない。自分の存在を確認するために。

 彼女は壊れかけてはいるが、ときおり一瞬、真顔になるときがある。そこには、「なんとかまっとうになりたくて足掻(あが)いているけど、足掻けば足掻くほど泥沼に足をとられていく」不運な陰が見え隠れする。

 わかっているのだ、彼女はすべて。人生を諦めているわけではない。だが諦めない方向に向かう術がわからないだけなのだ、きっと。