『親密な他人』で体現する孤高のスタイル

神尾楓珠の“圧倒的な美しさ”にうっとり…『親密な他人』や過去BL作品にみる魅力
(画像=『女子SPA!』より引用)

© 2021 シグロ/Omphalos Pictures

 神尾のきらきら輝く少女漫画的な美しさは、確かにビジュアル的には陽キャではあるけれど、その瞳の奥には『彼女が好きなものは』の主人公にも感じられた悩ましい葛藤が垣間見え、神尾の内面的な演技が陰キャ的印象を与えながら、複雑な内面性を表現している。

 神尾独自の孤高のスタイルが強化され、俳優として演技力を持て余すことなく発揮している『親密な他人』は、現時点での神尾にとって出せる力をすべて注ぎ込んで、演技と果敢に向き合おうとする堂々たる力作である。

 それはまず何より抑制の利いた演技力が物語っている。パート店員の石川恵(黒沢あすか)が井上雄二(神尾楓珠)に失踪した息子(らしき人)のことを聞くために待ち合わせる場面では、非常にぶっきらぼうな態度の雄二が待ち合わせ場所に現れ、取り付く島がない。しかも初対面でだいぶ年上の相手にタメ口を使うのだから、とんでもない礼儀知らずにすら映る。

 何度かカフェでお茶をしながら恵と会話する場面では、雄二を演じる神尾の特に抑制された演技の調子が絶妙だ。落ち着いた声のトーンが、相手にあまり関心がなさそうに見えるぶっきらぼうさをうまく表現している。

 それでいてどこか人懐っこい感じがするのは、まあ神尾本人が持つ愛嬌がどうしたってだだ漏れてしまっているのだろう。それが逆に雄二役の“陰”要素が平面的にならないような役作りの工夫となっているのだ。

 雄二は、毎回情報提供料として恵から5000円を受け取るために、情報を小出しにするのだが、詐欺グループの仲間に呼び出されて慌てて店を出ていくとき、何か気づいてほしいかのように切なく、甘い余韻を残していくのも見逃せない。

驚きに満ちた神尾ならではの演技

神尾楓珠の“圧倒的な美しさ”にうっとり…『親密な他人』や過去BL作品にみる魅力
(画像=『女子SPA!』より引用)

© 2021 シグロ/Omphalos Pictures

 雄二のキャラクター性を通じて神尾が残す余韻(痕跡)をこうしてひとつひとつ吟味しながら拾い上げていくうちに次第に浮かび上がるのは、段々と輪郭がはっきりとしてくる演技の全貌だ。本作には、神尾の演技の全貌が全編を追って明らかになっていく非常にミステリアスな雰囲気がある。

 神尾が見せるのは、驚きに満ちた演技だ。詐欺グループのリーダーの追っ手から逃れるために、宿無しの雄二がその場しのぎに恵の部屋に居候することになると、密室内ではさまざまな激情が次々と噴出する。

 例えば恵に髭の剃り残しがあると言われて、風呂場で剃刀を頬にあてられる危うい場面。それをきっかけに雄二はその夜、幼い頃のトラウマを思い出して息詰まるようにわんわん泣きじゃくる。涙は横たわる頬を下に伝わらずに、上向きに流れて長い睫毛に溜まるようにさえ見える。こんな涙の美しさも神尾ならではだ。

 あるいは、恵が慣れない手付きながら滑らかに髪を切り、すっきりした雄二が鏡の前で自分の姿を見るとき、神尾自身の生々しい素顔を垣間見たような感覚になり、一瞬肌寒さを感じるのは、気のせいだろうか?