「物わかりのいい妻」は、自分自身をゆっくりと殺していく

　わかりあえないのは、夫のせいだけではなく、自分もきちんと向き合うべきだったと忍は言う。やり過ごして流してしまえば、すべては日常生活に埋もれていく。すでに怒ったり真に受けたりするほうが自分を消耗するのだと忍は考えていたのだろう。 　だが、千秋に出会って、そして岡野と関係をもって、忍は変わった。夫への「物わかりのいい妻」「大人の対応ができる妻」は、結局、自分自身をゆっくりと殺していくことになるのだ。

「洋平さんも好きにして。死にたいならひとりで死んで。迷惑かけないで」 そう言ったときの忍の表情は、すでに夫への無関心を表している。そして洋平もまた、もう妻の心が戻らないことを感じていた。女は決めたら翻らない。夫が、妻の心のうちを深く理解する日は来るのだろうか。

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＜文／亀山早苗＞ ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 亀山早苗 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter：@viofatalevio

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